なぜ厚生年金保険料の値上げが繰り返されるのか、わかりやすく解説
厚生年金保険料の値上げがヤバイ、2025年改革で何が変わる?
日本の年金制度は、少子高齢化や経済情勢の変化に対応するため、定期的に見直しが行われています。2025年に予定されている年金制度改革では、厚生年金保険料の引き上げが注目を集めています。この改革は、現役世代の負担増加と将来の年金給付の安定化という、相反する課題のバランスを取ろうとする試みです。
本記事では、2025年の年金制度改革における厚生年金保険料の値上げについて、その背景や影響、具体的な変更点を詳しく解説します。20代から40代の方々にとって、この改革がどのような意味を持つのか、そして将来の年金制度にどのような影響を与えるのかを理解することは、自身の将来設計を考える上で非常に重要です。
この記事を読むことで、以下の点が理解できます。
- 厚生年金保険料の値上げの背景と目的:少子高齢化社会における年金制度の持続可能性を高めるための施策について解説します。
- 具体的な変更点と影響を受ける層:保険料の上限引き上げや在職老齢年金の見直しなど、主要な改革内容とその影響を受ける人々について詳しく説明します。
- 改革がもたらす長期的な影響:現役世代と将来世代への影響、年金財政への効果など、改革の意義と課題を多角的に分析します。
- 個人でできる対策:改革を踏まえた上で、個人レベルでどのような準備や対策が可能かを提案します。
1. 厚生年金保険料値上げの背景と目的
少子高齢化と年金財政の課題
日本の年金制度は、現役世代が支払う保険料で高齢者の年金を支払う「賦課方式」を採用しています。しかし、少子高齢化が進む中で、支える側の現役世代が減少し、支えられる側の高齢者が増加しています。この人口構造の変化は、年金財政に大きな圧力をかけています。
2025年の年金制度改革では、この課題に対応するため、厚生年金保険料の引き上げが検討されています。具体的には、高所得者層の保険料負担を増やすことで、年金財政の安定化を図ろうとしています。
マクロ経済スライドの調整
また、この改革では「マクロ経済スライド」の調整も重要な焦点となっています。マクロ経済スライドとは、少子高齢化の進行に応じて年金給付水準を自動的に調整する仕組みです。現在、厚生年金と基礎年金でこの調整終了時期に大きな差があり、特に基礎年金の給付水準の低下が懸念されています。
2025年の改革では、この調整期間を一致させることで、基礎年金の給付水準の急激な低下を防ぎつつ、年金財政全体の安定化を目指しています。
【用語解説:マクロ経済スライド】
マクロ経済スライドとは、少子高齢化による現役世代の減少と平均余命の伸びに応じて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組みです。具体的には、物価や賃金の上昇率から一定の調整率を差し引いて年金額を改定します。これにより、年金財政の長期的な安定を図ることを目的としています。2004年の年金制度改革で導入されました。
2. 具体的な変更点と影響を受ける層
標準報酬月額の上限引き上げ
2025年の年金制度改革で最も注目されているのが、厚生年金保険料の計算基準となる標準報酬月額の上限引き上げです。現在の上限は65万円ですが、これを75万円に引き上げる方向で検討が進んでいます。
この変更により、年収798万円以上(賞与を除く)の会社員や公務員が影響を受けることになります。具体的には、月々の保険料負担が最大9,000円程度増加する見込みです。
【具体例:保険料負担の変化】
年収900万円の会社員Aさんの場合 現行制度:月々の保険料負担 約59,000円 改革後:月々の保険料負担 約68,000円 差額:約9,000円の負担増
在職老齢年金制度の見直し
もう一つの重要な変更点は、「在職老齢年金制度」の見直しです。この制度は、65歳以上の働く高齢者の年金給付額を調整するものですが、2026年4月から、減額が始まる基準額を現行の月額50万円から62万円に引き上げる方向です。
この変更は、高齢者の就労を促進し、年金財政の改善にも寄与することが期待されています。
【用語解説:在職老齢年金制度】
在職老齢年金制度とは、一定以上の収入がある高齢者の年金給付額を調整する仕組みです。現在、65歳以上の場合、年金と賃金の合計が月額47万円を超えると年金が減額され始め、月額50万円を超えると厚生年金の半分が支給停止されます。この制度は、高齢者の就労意欲を阻害する要因の一つとして指摘されてきました。
3. 改革がもたらす長期的な影響
年金財政への効果
厚生年金保険料の引き上げは、短期的には年金財政の改善に寄与すると考えられています。厚生労働省の試算によると、標準報酬月額の上限引き上げにより、年間約2,000億円の保険料収入増が見込まれています。
しかし、この増収効果は長期的には限定的であり、少子高齢化の進行による構造的な問題の根本的な解決にはなりません。そのため、この改革は年金制度の持続可能性を高めるための一つのステップに過ぎないと言えます。
世代間の公平性への影響
この改革は、現役世代、特に高所得層の負担を増やす一方で、将来世代の年金給付の安定化を図るものです。しかし、この負担と給付のバランスについては議論が分かれています。
現役世代からは、「既に高い社会保険料負担がさらに増える」という不満の声が上がっています。一方で、将来世代の年金給付を維持するためには、現役世代の一定の負担増は避けられないという見方もあります。
労働市場への影響
在職老齢年金制度の見直しは、高齢者の就労促進につながると期待されています。これにより、労働力不足が懸念される日本社会において、高齢者の経験や技能を活用する機会が増えることが期待されます。
しかし、同時に若年層の雇用や昇進の機会に影響を与える可能性もあり、世代間の雇用バランスをどのように取るかが課題となります。
4. 個人でできる対策
自身の年金加入状況の確認
まず重要なのは、自身の年金加入状況を正確に把握することです。「ねんきんネット」などのサービスを利用して、これまでの加入期間や将来の年金見込額を確認しましょう。特に、20代から40代の方は、この情報を基に長期的な資産形成計画を立てることが重要です。
私的年金の活用
公的年金だけでなく、個人年金保険やiDeCoなどの私的年金制度を活用することも検討しましょう。これらの制度は税制優遇があり、将来の年金額を上乗せする効果があります。
【具体例:iDeCoの活用】 35歳のBさんが月々20,000円をiDeCoで運用した場合 30年間の運用(年利3%と仮定):約1,160万円
税制優遇効果:年間約24,000円の所得控除
資産形成の多様化
年金だけでなく、投資信託や株式投資など、多様な資産形成手段を検討することも重要です。リスクとリターンのバランスを考慮しつつ、長期的な視点で資産を育てていくことが、将来の経済的安定につながります。
キャリアアップと収入増加の努力
年金制度の変更に対応するためには、自身の収入を増やす努力も重要です。スキルアップやキャリアチェンジなどを通じて、収入増加を目指すことで、将来の年金額の増加にもつながります。
まとめ
2025年の年金制度改革における厚生年金保険料の値上げは、日本の年金制度の持続可能性を高めるための重要な施策の一つです。高所得者層の負担増加や在職老齢年金制度の見直しなど、具体的な変更点は、現役世代と高齢者の双方に影響を与えます。
この改革は、短期的には一部の層の負担増加をもたらしますが、長期的には年金財政の安定化と世代間の公平性の向上を目指しています。しかし、少子高齢化という根本的な課題に対する完全な解決策とはなっていません。
20代から40代の方々にとって、この改革は将来の年金受給に直接影響する重要な問題です。自身の年金加入状況を確認し、私的年金の活用や多様な資産形成を検討するなど、個人レベルでの対策を講じることが重要です。
また、この改革を機に、日本の社会保障制度全体について考える良い機会となるでしょう。年金制度だけでなく、医療や介護など、社会保障制度全体の持続可能性について、社会全体で議論を深めていく必要があります。
私たち一人一人が、この問題に関心を持ち、自身の将来設計を見直すとともに、社会全体の在り方について考えることが、より良い未来につながるのではないでしょうか。