個人向け国債は”やめとけ”といわれているのはなぜ?

個人向け国債は”やめとけ”といわれているのはなぜ?
ライター:関野 良和

”個人向け国債はヤバイのでやめたほうがいい”と口コミや評判で言われている原因について掘り下げて解説します

本当に”個人向け国債はやばい”のか、デメリットとメリットから真相に迫る

個人向け国債についてネットの口コミや評判から真相を掘り下げてみました。最近、投資に関する情報サイトやSNSで「個人向け国債はやめとけ」という意見を目にすることがあります。一方で、「安全な資産運用としておすすめ」という声も少なくありません。財務省が発行する個人向け国債は、リスクを抑えた資産運用の選択肢として多くの方に検討されていますが、なぜ評価が分かれるのでしょうか。金融環境の変化やインフレ状況、さらには日本銀行の金融政策転換などを踏まえ、個人向け国債の実態と「やめとけ」と言われる理由を検証していきます。

個人向け国債の基本と種類

個人向け国債とは、財務省が個人投資家向けに発行している国債のことです。国が発行する債券であり、企業や団体が発行する社債などと比較して信用リスクが低いとされています。

個人向け国債には以下の3種類があるようです。

  • 固定3年:発行時の金利が満期まで変わらない固定金利タイプで、満期は3年
  • 固定5年:発行時の金利が満期まで変わらない固定金利タイプで、満期は5年
  • 変動10年:半年ごとに金利が見直される変動金利タイプで、満期は10年

これらの商品は、国民のだれもが資産運用に参加できるよう、最低1万円から購入することができ、1万円単位で購入額を増やせる仕組みとなっています。また、個人向け国債は毎月発行されているため、いつでも購入できる利便性があるようです。

2025年の最新金利状況

2025年2月時点の個人向け国債の金利は以下のようになっています。

  • 変動10年タイプ:0.83%(税引き前)
  • 固定5年タイプ:0.89%
  • 固定3年タイプ:0.74%

比較として、大手銀行の定期預金金利(スーパー定期)は3年で0.200%、5年で0.250%、10年で0.400%となっており、個人向け国債のほうが金利面で優位性があることがわかります。

「やめとけ」と言われる主な理由

ネット上で「個人向け国債はやめとけ」と言われる理由にはいくつかあるようです。それぞれの点について詳しく見ていきましょう。

1. 株式投資と比較して低リターン

個人向け国債は、株式投資や投資信託と比較すると期待できるリターンが低いと指摘されています。株式投資では年利5%以上のリターンを見込める可能性がある一方で、個人向け国債の金利は現在1%未満にとどまっています。

投資経験者からすると「大して利益が出ないからやめとけ」という意見が出ることがあるようです。特に近年の株式市場の好調さを考えると、リターンの差が顕著に感じられるのかもしれません。

2. インフレに対する脆弱性

特に固定金利タイプの個人向け国債は、インフレ率が上昇すると実質的な資産価値が目減りする可能性があります。総務省の資料によると、直近の物価上昇率は前年同期比+2.8%(総合指数)となっていますが、個人向け国債の金利はこれを下回っています。

このため、「個人向け国債の期待リターンは物価上昇率よりも低く、実質的な資産の購買力が下がってしまう」として「やめとけ」という声も聞かれるようです。

3. 解約制限と手間

個人向け国債は購入後1年間は原則として中途換金できないという制約があります。急にまとまった資金が必要になった場合に、株式のようにすぐに売却して現金化することができないという流動性の問題があるのです。

また解約するには、口座を開設している取扱機関(銀行・証券会社・郵便局など)に行く必要があり、手続きに手間がかかるとされています。

「手間がかかる割には、大して儲からない」「必要なときに引き出せないから不便」という考えから、やめたほうがいいと意見する人もいるようです。

4. NISA制度の対象外

個人向け国債は少額投資非課税制度(NISA)の対象外となっています。2024年から始まった新NISA制度では多くの投資商品が非課税対象となる中、個人向け国債は対象外であるため、税制面でのメリットを受けられない点がデメリットと言えるでしょう。

5. その他のデメリット

その他にも以下のような理由から「やめとけ」と言われることがあるようです。

  • 得られるリターンの割に資金拘束期間が長い
  • 購入できる場所や機会が限られている
  • 国のデフォルトリスク(極めて低いとはいえ存在する)
  • キャンペーンに釣られると金融機関から他の商品の勧誘を受ける可能性がある

個人向け国債の魅力とメリット

一方で、個人向け国債には多くのメリットもあり、特定の投資目的や資金状況には適している可能性があります。

1. 元本保証の安全性

個人向け国債最大の利点は、元本が保証されている点です。経済環境や市場の変動に関わらず、満期時には投資した元本が確実に返ってくるため、元本割れリスクがほとんどないと言えます。

国が発行する債券であるため、満期時の元本のお返しも、半年毎の利子の支払いも、国が責任を持って行います。日本が財政危機に陥らない限り、安心して保有できる資産と言えるでしょう。

2. 最低金利保証

個人向け国債には年率0.05%の最低金利が保証されています。これは、マイナス金利時代には銀行の普通預金金利(年0.001%程度)を大きく上回る水準でした。経済環境が悪化して実勢金利が下落した場合でも、この最低金利が保証されるのは安心材料の一つと言えるでしょう。

3. 近年の金利上昇と定期預金との比較

2022年から2025年にかけて、個人向け国債の金利は上昇傾向にあります。特に変動10年国債については、2022年8月頃から金利が上昇し始め、2025年2月の募集分では0.83%(税引き前)という水準になっています。

これは大手銀行の定期預金金利(10年で0.400%)と比較すると、約2倍の水準であり、安全資産としては魅力的な金利水準と言えるでしょう。

4. 中途換金の柔軟性

発行後1年経過すれば、個人向け国債はいつでも中途換金できます。中途換金の際には直前2回分の各利子(税引前)相当額×0.79685が差し引かれるものの、元本部分は保証されるため、元本割れの心配なく換金できる点はおすすめポイントと言えるでしょう。

また、災害救助法の適用対象となった大規模自然災害による被害や、保有者本人が亡くなられた場合には、発行後1年未満でも中途換金できる特例もあるようです。

5. 少額からの購入可能性

個人向け国債は最低1万円から1万円単位で購入できるため、少額から始められる手軽さがあります。

一般の利付国債の購入最低額面金額が5万円であるのに対し、個人向け国債は1万円からと、より少額で購入できるように設計されています。

6. 預金保険制度の限度額を超える資金の受け皿

銀行預金の場合、預金保険制度により保護されるのは1金融機関ごとに元本1000万円までと破綻日までの利息等です。それを超える資金については、複数の金融機関に分散するなどの対応が必要になります。

一方、個人向け国債であれば金額の制限なく購入でき、日本国内で最も安全と言われる資産運用手段の一つとして、1000万円を超える資金の運用先としても適しているようです。

個人向け国債の需要と選ばれる理由

個人向け国債がどのような人に選ばれているのか、その購入状況や理由についても見ていきましょう。

購入者の年齢層

財務省の「令和4年度国債広告に関する効果測定結果」によると、個人向け国債購入者の年齢は60代以上が約50%を占めているものの、20代、30代の若い世代も一定比率を占めており、幅広い年齢層に購入されているようです。

購入される商品タイプ

令和4年の商品別購入比率を見ると、「変動10年」が約80%と圧倒的な人気を誇っています。これに対し「固定3年」が約14%、「固定5年」が約6%となっています。

近年の金利上昇傾向を考えると、変動10年タイプが半年ごとに金利見直しの恩恵を受けられるため、その人気の高さは理解できるものです。

購入理由

個人向け国債を購入した理由としては、「国が発行しているので安心だから」と答えた人が約59%を占め、安心感が最大の購入理由となっています。また、「身近な金融機関で購入できるから」と答えた人も約36%おり、購入の手軽さも評価されているようです。

個人向け国債をめぐる誤解

「やめとけ」という意見の中には、誤解に基づくものもあるようです。以下、個人向け国債に関する誤解を検証してみましょう。

誤解1:すべての個人向け国債がインフレに弱い

固定金利タイプの個人向け国債はインフレに弱いという指摘は一理ありますが、変動10年タイプについては半年ごとに金利が見直されるため、金利上昇局面ではその恩恵を受けることができます。

実際に、2022年8月あたりから変動10年国債の金利は上昇してきており、例えば2022年7月に発行された変動10年国債の適用利率は、0.16%、0.17%、0.29%、0.46%、0.69%と半年ごとに上昇しています。

誤解2:金融機関の破綻リスク

個人向け国債の口座を開設している金融機関が破綻した場合でも、元本や利子の支払いを受けられなくなることはありません。これは、元本や利子の支払いは国が責任を持って行うためです。この点は預金とは異なる安全性と言えるでしょう。

誤解3:リターンだけで評価する視点

個人向け国債を株式投資などと単純に比較して「リターンが低いからやめとけ」という意見がありますが、これは投資の目的や資産配分の考え方を無視した一面的な評価と言えるでしょう。投資ポートフォリオの中での役割(安全資産)として見れば、個人向け国債は決してやばくない選択肢です。

個人向け国債が適している人

これらの特徴を踏まえると、個人向け国債が特に適している人や状況としては以下が考えられます。

1. 安全性を最優先する投資家

元本保証と国の信用に基づく安全性を最も重視する投資家には、個人向け国債は非常に適した金融商品と言えるでしょう。リスク許容度が低い人や、老後の資金を守りたい人にとっては有力な選択肢となります。

2. 預金保険制度の限度額を超える資金の運用先を探している人

1金融機関あたり1000万円を超える預金を持つ人にとって、個人向け国債は安全性の高い代替運用先として検討する価値があるでしょう。

3. 資産のポートフォリオ分散を図りたい人

株式や投資信託などのリスク資産と併せて、安定資産としてポートフォリオに組み入れることで、全体のリスクを抑えながら資産運用を行いたい人にとっても、個人向け国債は検討に値するでしょう。

4. 今後の金利上昇を見込む人

特に変動10年タイプは、今後の金利上昇局面で恩恵を受けられる可能性があるため、金利上昇を予想する投資家にとっては魅力的な選択肢となるかもしれません。

結論:個人向け国債は一概に「やめとけ」とは言えない

ここまで見てきたように、個人向け国債は「やめとけ」と言われる理由がある一方で、多くのメリットも持ち合わせています。個人の投資目的や資金状況、リスク許容度によって、その評価は大きく変わるものと言えるでしょう。

特に、安全性重視の資産運用や、預金保険制度の限度額を超える資金の運用先として、また資産ポートフォリオの安定部分として個人向け国債を検討することは十分に理にかなっています。

2022年以降の金利上昇環境では、特に変動10年タイプの個人向け国債は定期預金を上回る金利水準となっており、安全資産としての魅力が高まっていると言えるでしょう。

「投資で損したくない人」「リスクは極力取りたくない人」にとって、個人向け国債は定期預金よりもお金が増やせて元本保証もあり、今後の金利上昇にも備えられる便利な商品です。

個人向け国債は一概に「やめとけ」と言えるものではなく、むしろ多くの方にとって資産運用の有効な選択肢となる可能性が高いと言えるでしょう。ネットの口コミに惑わされず、自分の資産運用の目的やリスク許容度に合わせて、個人向け国債のメリットとデメリットをバランスよく評価することが大切です。

2025年現在の金融環境においては、個人向け国債、特に変動10年タイプは決してやめるべきではなく、むしろ安全性と相対的な高金利を兼ね備えた貴重な資産運用手段として、多くの投資家にとっておすすめの選択肢と言えるのではないでしょうか。

以上、個人向け国債の評判と真相について分析してみました。資産運用は個人の状況や目標によって最適な方法が異なりますので、ご自身の状況に合わせて検討されることをお勧めします。財務省や金融機関の最新情報も参考にしながら、ぜひ賢明な判断をしてください。

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執筆者のプロフィール
関野 良和
大手国内生命保険会社や保険マーケティングに精通し、保険専門のライターとして多メディアで掲載実績がある。監修業務にも携わっており、独立後101LIFEのメディア運営者として抜擢された。 金融系コンテンツの執筆も得意としており、グローバルマクロの視点から幅広いアセットクラスをカバーしているが、特に日本株投資に注力をしており、独自の切り口でレポートを行う。 趣味のグルメ旅行と情報収集を兼ねた企業訪問により全国を移動しながらグルメ情報にも精通している。
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