持株会は”やめたほうがいい”といわれているのはなぜ?


”従業員持株会はヤバイのでやめたほうがいい”と口コミや評判で言われている原因について掘り下げて解説します
本当に持株会はやばいのか、デメリットとメリットから真相に迫る
従業員持株会についてネットの口コミや評判から真相を掘り下げてみました。「やめたほうがいい」という声が広がる一方で、実際のところはどうなのでしょうか。東京証券取引所や日本証券業協会のデータや、実際の利用者の声をもとに、その実態と賢い活用法について詳しく解説します。
従業員持株会とは何か?基本的な仕組みを理解しよう
従業員持株会とは、従業員が給与やボーナスから一定額を拠出して自社の株式を購入する制度です。東京証券取引所の調査によると、2020年度時点で上場企業の8割以上がこの制度を導入しているようです。
この制度の基本的な仕組みは以下のとおりです。
- 従業員は毎月の給与から一定額を天引きして自社株を購入します
- 多くの企業では、会社側が奨励金として拠出金の5~10%程度を上乗せします
- 購入した株式は「持株会のもの」として管理され、各従業員は拠出額に応じた持分を持ちます
- 配当金は持分に応じて各従業員に分配されます
マネーフォワードのIPOサポートページによると、従業員持株会は従業員の資産形成支援と、会社側の福利厚生充実という二つの側面を持っていると説明されています。
「やめたほうがいい」と言われる主な理由
ネット上では「従業員持株会はやめたほうがいい」という意見をよく見かけます。インベストコンシェルジュの相談事例では、「持株会はやめとけと言われましたがなぜでしょうか?」という質問に対し、専門家が回答しています。なぜそのような評判が広がっているのでしょうか?主な理由を見ていきましょう。
1. リスクの集中:「やばい」レベルでの二重リスク
最も指摘されるデメリットは、収入と資産の両方が同じ会社に依存してしまうことです。こびと株.comの動画コンテンツでは「従業員持株会ってどうなの?奨励金に目を奪われて、大きなデメリットを見逃してはいけない」として、この点を強調しています。
具体的には、会社の業績が悪化した場合:
- 給与やボーナスが減少する可能性がある
- 同時に株価も下落し、資産価値が目減りする
- 最悪の場合、会社の経営破綻で職を失うと同時に株式価値もゼロになる可能性がある
「労働と投資が一極集中してしまう」という点は、投資の基本原則である「分散投資」に反するため、リスク管理の観点から「やばい」と指摘されているのです。HRブレインのメディアでも、「リスクの分散ができないというデメリットがある」と明確に指摘されています。
2. 流動性の問題:急に現金化できない
楽天カードのマネー教育サイト「みんなのマネーセミナー」では、「売却に時間がかかる」という点をデメリットとして挙げています。通常の株取引では、市場が開いている時間内ならほぼリアルタイムで売却できますが、持株会経由で保有している株式は手続きに時間がかかることがあります。
これは予期せぬ資金需要が発生した場合に対応しづらいということを意味します。特に未上場企業の場合、アタックス税理士法人のレポートによれば、「売りたいタイミングで売却できない可能性がある」という制約があるようです。
3. 株主優待が得られないケースがある
株主優待は個人投資家にとって株式投資の魅力の一つですが、楽天カードの記事では「持株会では株主優待がもらえません」と明記されています。これは通常の株主と同じ権利を完全に享受できるわけではない点として、おすすめしない理由の一つになっています。
4. 株価下落リスク:奨励金があっても元本割れする可能性
「奨励金という上乗せがあるから絶対にお得」という考え方は誤りである可能性があります。楽天カードのサイトでは「10%の奨励金がついているにもかかわらず、元本割れするケースもある」と警告しています。
株式投資はあくまでリスク資産であり、会社の業績悪化や市場全体の下落などで株価が下がれば、奨励金分を含めても損をする可能性があるのです。
5. 売り時判断の難しさ
東洋経済オンラインの記事「従業員持ち株会で株を買うと損しやすい理由」では、自社株という身近な存在に対して「根拠のない安心感」を持ちやすく、客観的な判断が難しくなることを指摘しています。
行動経済学の「利用可能性ヒューリスティック」という概念を用いて、自社株は過度に安全と錯覚し、売り時を逃しやすいという欠点があると解説されています。
従業員持株会の誤解と実際のメリット
一方で、従業員持株会には確かなメリットもあります。「やめたほうがいい」という評判は、一部の事実を過大評価した結果かもしれません。マネジーの記事では、従業員持株会に対する誤解について「持株会は株主の利益のためだけに存在するというのは間違い」と指摘しています。
1. 奨励金というかなり大きな利点
最も明確なメリットは奨励金の存在です。M&Aキャピタルパートナーズの解説では、「持株会を導入している企業の約9割が奨励金制度を採用しており、一般的には5~10%の割合の奨励金を出している」と説明されています。
これは実質的に:
- 毎月の投資に5~10%のボーナスがつく
- 銀行預金の金利が1%にも満たない現在、10%という利回りはかなり高い
- 長期的に見れば、複利効果でさらに大きな差になる可能性がある
カブドットコムの記事によれば、「1,000円に対して100円の支給ということは利回りにすると10%」で、「銀行の預金金利が1%にも満たない現在の状況で、かなり高い奨励金」と評価しています。
2. 少額から株式投資が可能
SOICOの記事では、「従業員持株会では『1株』から購入可能であるため、無理のない範囲で自社の株式を購入できる」と説明しています。
通常、東京証券取引所上場株式は100株(1単元)からの取引が基本ですが、持株会では1株から購入可能です。これにより:
- 初期投資額のハードルが大幅に下がる
- 1,000円程度という少額から投資できる
- 貯蓄感覚で資産形成を始められる
HR Brainのメディアでも、「100株単位での取引に統一された」現在の株式市場において、少額から株式を買えることを重要なメリットとして挙げています。
3. 強制貯蓄効果で資産形成が進む
KAONAVIの記事では「資産形成が楽」というメリットを挙げています。自己管理が苦手な方でも、給与天引きなので自動的に資産形成が進みます。日々の生活に支障を来さない範囲で定額投資を続けられるというのは、やばくないメリットです。
大和総研のコラムでも「少額から自動積立投資を行うことができる」点がメリットとして挙げられています。
4. ドルコスト平均法の恩恵
こびと株.comの動画コンテンツでは、デメリットを強調する一方で「ドルコスト平均法でコツコツ積み立てられる」というメリットも認めています。
定額を定期的に投資することで:
- 相場の高いときには少なく、安いときには多く株を買うことになる
- 結果として平均購入単価を抑えられる可能性がある
- 短期的な相場変動に一喜一憂せずに済む
これは長期投資の基本戦略の一つであり、持株会は自然とこの戦略を実行できる仕組みになっています。
企業側から見た持株会のメリット
マネジーの記事によれば、企業側から見ると、持株会には次のようなメリットがあるとされています。
- 株式市場における求心力の強化
- 経営陣が意思を持って行動できる
- 企業経営の安定化
- 従業員のモチベーション向上
これらは間接的に従業員にも良い影響を与える可能性があります。会社の安定経営は雇用の安定につながり、従業員のモチベーション向上は職場環境の改善や業績向上に結びつくかもしれません。
成功事例から学ぶ効果的な活用法
マネジーの別の記事では、国内企業の成功事例として「持株会を通じた意識改革や経営参画意識の高揚」が挙げられています。具体的には:
- 定期的な財務情報の共有
- 透明性の高い運用
- インセンティブ制度や教育プログラムの充実
これらの施策により、従業員の信頼と共感を得て、持株会を効果的に運用している企業があるようです。
また、国際企業の事例としては「多様な文化と法制度の中で持株会を運用するために、地域ごとにカスタマイズされたプログラムを提供」するなど、柔軟な運用が成功の鍵となっているようです。
従業員持株会を上手に活用するためのポイント
従業員持株会は一概に「やめたほうがいい」とも「必ず入るべき」とも言えません。個人の状況によって判断が分かれます。上手に活用するためのポイントを見ていきましょう。
1. 資産配分を考える
カブドットコムの記事では「奨励金は確かに魅力的ですが、従業員持株会制度での自社株購入は個別銘柄への一極集中投資になってしまう」と指摘しつつ、「株式投資においては、分散投資をすることが重要」と助言しています。
総資産の一部(例えば10~20%程度)を持株会に充て、残りは他の資産(投資信託、他社株、債券、預金など)に分散することで、リスクを軽減しながらメリットを享受できる可能性があります。
2. 自社のビジネスモデルと業界動向を理解する
自社の事業内容や業界の将来性について理解を深めることで、より良い判断ができるようになります。株価の大幅な下落リスクが少ない安定した業界であれば、持株会のデメリットは軽減される可能性があります。
3. 長期的な視点を持つ
短期的な株価変動に一喜一憂せず、10年、20年といった長期的な視点で考えることが重要です。特に若い世代は時間の味方につけることができるため、複利効果を最大限に活かせる可能性があります。
カブキソの記事では、特に「新卒社員」向けに従業員持株会のメリットとデメリットを解説しており、長期的な視点での考え方を示唆しています。
4. 奨励金率と自社の株主還元方針を確認する
企業によって奨励金の率は異なります。また配当政策も会社によって大きく異なるため、自社の株主還元姿勢(配当性向や増配の実績など)を確認することで、より良い判断材料になります。
M&Aキャピタルパートナーズの記事では「持株数が多いほど、業績が伸びたときに配当金を多く得られる」と説明しています。
従業員持株会についての専門家の見解
投資のコンシェルジュの佐々木辰氏は「社員持株会の最大のデメリットは、リスクが分散されていないこと」と明確に指摘しています。一方で、大和総研のコラムでは「筆者が従業員持株会に加入している主な理由は、奨励金を貰えるという金銭的メリットが存在したこと」と、メリットを評価する声もあります。
これらの専門家の意見を総合すると、従業員持株会は万人におすすめできる制度ではないものの、状況によっては大きなメリットをもたらす可能性がある制度だと言えるでしょう。
未上場企業の従業員持株会についての注意点
アタックス税理士法人の村井克行氏は、未上場企業の従業員持株会について特有の留意点を挙げています。
- 会員数の維持が難しい場合がある
- 株価のルール設定が重要
- 高額での買取り要求対策が必要な場合もある
特に「株価のルール」については、「持株会に関する株価は、算定ルールで運用するのではなく、一律○○円、加入するときも脱退するときも同額、とすることが望ましい」とアドバイスしています。
これは上場企業と異なり、市場価格が存在しない未上場企業特有の課題であり、制度設計の際に慎重な検討が必要とされています。
従業員持株会に関する最新トレンド
日本証券業協会は2022年7月に「中間層の資産所得拡大に向けて~資産所得倍増プランへの提言~」を発表し、その中に従業員持株会の推進が盛り込まれたと大和総研のコラムで報告されています。
これは岸田首相が2022年5月に打ち出した「資産所得倍増プラン」を受けてのものであり、政府としても従業員持株会を資産形成の手段として推進する姿勢がうかがえます。
ただし、同コラムでは「東京証券取引所の『2020年度 従業員持株制度状況調査結果』によると、従業員持株制度を有する企業3,239社のうち、実際に加入している従業員の割合は39.68%にとどまる」と指摘しており、普及には課題があるようです。
まとめ:従業員持株会は本当に「やめたほうがいい」のか?
以上の情報を総合すると、従業員持株会について以下のように考えることができます。
デメリット(「やめたほうがいい」理由)
- 収入と資産が同一企業に依存し、リスクが集中する
- 株式の流動性が低く、すぐに売却できない場合がある
- 奨励金があっても株価下落で損する可能性がある
- 株主優待が得られないケースがある
- 客観的な売り時判断が難しい
メリット(「おすすめ」できる理由)
- 奨励金という実質的なボーナスがある(5~10%程度)
- 少額(1,000円程度)から株式投資を始められる
- 給与天引きによる強制貯蓄効果で資産形成が進む
- ドルコスト平均法の恩恵を自然と得られる
- 会社の業績向上と自分の資産形成が連動する
これらを踏まえると、従業員持株会が「絶対に悪い」わけでも「絶対に良い」わけでもないことがわかります。重要なのは、自分の経済状況、ライフプラン、リスク許容度などを考慮した上で判断することです。
特に注目すべきは「リスク分散」の考え方です。従業員持株会自体が悪いのではなく、資産の大部分を持株会に集中させることがリスクと言えます。総資産の一部を持株会に充て、残りを他の資産に分散投資することで、リスクを抑えながらメリットを享受できる可能性があります。
結論として、従業員持株会は「やめたほうがいい」という単純な話ではなく、上手に活用すれば資産形成の有効な手段となりうる制度だと言えるでしょう。奨励金というユニークな利点を活かしつつ、リスク分散を意識した活用が賢明と思われます。まさに「やばくない」制度として、適切に活用することをおすすめします。
自社の持株会制度の詳細を確認し、自分の経済状況と照らし合わせて、持株会を賢く活用するかどうかを判断してみてはいかがでしょうか。
