新興国株式は”おすすめしない”といわれているのはなぜ?

新興国株式は”おすすめしない”といわれているのはなぜ?
ライター:関野 良和

”新興国株はヤバイのでやめたほうがいい”と口コミや評判で言われている原因について掘り下げて解説します

本当に”新興国株式インデックスはやばい”のか、デメリットとメリットから真相に迫る

新興国株式がおすすめされないという声についてネットの口コミや評判から真相を掘り下げてみました。投資の世界では「新興国株式はやめとけ」という意見から「将来性があってやばくない」という意見まで、様々な評価が飛び交っています。MSCIエマージング・マーケット・インデックスに代表される新興国株式は、多くの投資家にとって魅力的な選択肢でありながらも、なぜ否定的な評判が広がっているのでしょうか。本記事では、新興国株式のデメリットとされる点を詳しく検証し、同時に見落とされがちな利点にも光を当てていきます。

新興国株式とは何か?

まず、新興国株式とは何かを理解しておきましょう。新興国とは、先進国と比較して現在の経済水準は相対的に低いものの、将来的に高い経済成長が期待される国々を指します。具体的には中国、インド、ブラジル、ロシア、南アフリカ、メキシコ、タイ、台湾、韓国などが新興国に分類されることが多いようです。

新興国株式の代表的な指数は「MSCIエマージング・マーケット・インデックス」で、24か国の約1,400銘柄で構成されており、市場の時価総額の約85%をカバーしていると言われています。このインデックスの構成比率を見ると、2025年現在では中国、インド、台湾などのアジア諸国のウェイトが高いことがわかります。

日本も実は1900年代前半までは新興国と呼ばれていましたが、高度経済成長期を経て先進国の仲間入りを果たしました。このように、「新興国」というカテゴリーは時代とともに変化するものだということも覚えておくと良いでしょう。

「新興国株式はおすすめしない」と言われる主な理由

理由1:米国株式に劣るパフォーマンス

「新興国株式はおすすめしない」と言われる最も大きな理由の一つは、近年のパフォーマンスが米国株式に劣っているという点です。特に2015年以降の株価指数を比較すると、MSCIエマージング・マーケット・インデックスは、S&P500などの米国インデックスと比べて大きく見劣りすることがわかります。

2023年を例にとると、MSCIエマージング・マーケット指数の米ドルベースのリターンは9.9%だったのに対し、S&P 500指数は26.3%と大幅に上回っています。過去10年間でも同様の傾向が続いており、これが投資家の間でネガティブなセンチメントを形成する一因となっているようです。

「2020年以降、米国株はハイテクセクターを中心に大きく株価を上げています」という指摘もあり、テクノロジー企業が多い米国市場と比較されると、新興国株式市場は見劣りしてしまうと言われています。

ただし、比較する期間によって結果は大きく異なるという点は注意が必要です。実際、「2003年~2018年まで新興国株式がアウトパフォーム」していた時期もあり、将来的に新興国株式が好調になる可能性も十分考えられます。

理由2:多様なリスク要因

新興国株式への投資は様々なリスク要因を伴います。特に重要なのは以下のリスクです。

カントリーリスク

新興国は政治・経済・社会情勢の変動が先進国と比較して大きくなりやすいと言われています。「政治不安、経済不況、社会不安が証券市場や為替市場に大きな影響を与えることがある」との指摘もあります。

例えば、2008年のリーマンショック時にはロシアの証券取引所が取引を停止し、その結果、新興国株式に投資していた投資信託の中には購入・解約の申込みを停止したものもあったとのことです。

流動性リスク

新興国の市場は先進国に比べて市場規模が小さく、「流動性が低い」という特徴があります。流動性とは株式がどれほど容易に現金に変換できるかを指す概念で、「流動性が低い」ということは、市場に出回っている株式の量が少なく、売買が成立しにくい状況を意味します。

これは、政治的な混乱などで株価が下落した際に、売却を試みても買い手が見つからず、さらに株価が下落して大きな損失を被るリスクをもたらすと言われています。

ボラティリティ(価格変動性)の高さ

新興国株式は「ボラティリティが大きい」という特徴があります。ボラティリティとは価格の変動性を指し、新興国株式は先進国の株式と比較して価格変動が激しいという傾向があるようです。

「一般的に新興国は先進国に比べ市場規模が小さく、値動きが相対的に大きくなる傾向があります」との指摘もあります。具体的には、「リスク(標準偏差)が25%ということはリターンの平均値から±2標準偏差(標準偏差×2)の範囲に全収益率データの95.4%が含まれる」ということであり、「その下限が収益率平均の-50%にもなる」と解説されています。

為替リスク

新興国投資では為替の影響も大きな要素です。「高い経済成長率を誇る新興国は、インフレが起こりやすい状況です。インフレが起こると通貨の価値が下がるので、仮に新興国株が上昇しても、為替の影響で利益が減少します」という指摘があります。

例えば、1レアル=20円のブラジルの株を1株購入して25円で売却する場合、単純計算では5円の利益が出るはずですが、為替が急変して5円分の損失が発生すると、収支はプラスマイナスゼロになってしまうというケースも紹介されています。

中国への過度の依存

新興国株式インデックスファンドは、「中国への投資比率が30%を超えて」おり、「パフォーマンスの好不調は中国の影響を大きく受ける」点も懸念されています。中国については「2022年以降人口減少が確認されており今後も下落トレンドが継続」しているほか、「共産党一党による政治の不透明性や突然の制度変更、所得格差」なども課題とされています。

また、「外国企業が中国での経済活動を行うリスクを感じ、『生産拠点の移管』が継続している」という点も指摘されています。例えば、「アップルはiPhone工場を中国からインドへ移転」という動きも見られるそうです。

理由3:運用上の課題

高い手数料

新興国株式への投資は手数料が相対的に高いという課題もあります。「米国インデックスファンドの手数料は0.2%以下」のものが多いのに対し、「新興国インデックスファンドの信託報酬は1%を超える」ものもあると言われています。

長期運用を基本とする投資信託において、信託報酬はリターンに大きな影響を与えます。「例えば、新興国株が3%上昇した場合でも信託報酬が1%かかると、利益は2%しか残りません」という具体例も挙げられています。

情報収集の難しさ

新興国株式への投資では情報収集が難しいという点も課題とされています。言語の壁や、情報開示制度の違いなどから、個人投資家が正確な情報を得ることは容易ではないと言われています。

「新興国株式はおすすめしない」という見方への反論

反論1:「失われた10年」による好機

アライアンス・バーンスタインは「新興国株式をめぐる誤解」について解説し、「『失われた10年』により、回復に向かう好ましい環境が整った可能性がある」と指摘しています。厳しかった2023年を経て、新興国の株式市場には回復の兆しが現れているとの見方もあるようです。

また、「新興国株式はおすすめしない」と言われる最大の理由が「米国の利上げに対する投資家の警戒」だとする見方もあります。連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを始めると、新興国に投資されていた資金がアメリカに戻される傾向があるとされていますが、この状況は今後変化する可能性もあります。

反論2:長期的な経済成長の恩恵

新興国株式の最大の魅力は「長期間での経済成長の恩恵を受けられる」という点です。経済成長は短期間で一気に進むわけではなく、数年から数十年にわたって進展するものです。長期投資によって継続的な経済成長の恩恵を受けられる可能性が高いという見方もあります。

「長期投資によってリスクを軽減できる」という点も指摘されています。短期的に収益が大きく変動していても、長期間にわたって投資を続けることで一定のリターンに収束する可能性があるというわけです。

反論3:地域やセクターの分散効果

新興国投資の効果を高めるためには「地域やセクターが異なるさまざまな投資先に資金を分散させること」が重要だとされています。「ブラジルやメキシコなどの中南米のみに集中させるのではなく、インドやベトナム、フィリピン、台湾などのさまざまな地域に資産を分散」することで、特定の国のリスクを分散できると言われています。

また、セクター(産業分野)の分散も有効とされており、資源国だけでなくITや金融など様々な分野に分散投資することの重要性も指摘されています。

新興国株式投資を成功させるためのポイント

新興国株式への投資を成功させるためには、いくつかのポイントを押さえることが重要です。

ポイント1:時間分散と積立投資

新興国投資では「投資タイミングを分散する『時間分散』やそれを自動的に行うことができる『積立投資』も非常に有効」だとされています。積立投資を行うことで「購入タイミングを分散して高値掴みを避けることができるだけでなく、平均買付単価を低くする効果がある」と言われています。

この効果は「価格変動幅の大きいものほど大きな効果が得られる」とされており、価格変動の大きい新興国株式への投資に適していると考えられます。

ポイント2:投資信託やETFの活用

新興国株式は「将来ハイリターンが期待できますが、その分稼ぐ難易度が高い」とされています。そのため、「新興国株式を直接購入するよりも、株式を含む投資信託やETFを購入する方がおすすめ」という見方もあります。

投資信託を利用すれば「ファンドマネージャーに運用を任せ」ることができ、「現地企業を訪問して経営者の人柄を確認するなど、個人では難しい投資判断や分析を行ってくれる場合がある」というメリットもあります。

ポイント3:長期的な視点での投資

新興国株式への投資は「長期的な視点で行うことが重要」とされています。短期的には大きな価格変動や様々なリスクに直面することがありますが、「長期的に投資を行うことでリスクは収束する」可能性があります。

ただし、「長期間にわたって収益が改善しない可能性も十分に考えられる」という点には注意が必要です。リスクを正しく理解した上で、徹底したリスク管理のもとで投資を行うことが推奨されています。

将来性が期待される新興国市場

新興国市場の中でも、特に将来性が期待されている地域やセクターについても見ていきましょう。

インドの成長可能性

中国の影響が強い現在の新興国インデックスですが、「時価総額に応じて投資比率が変更されるため将来的にインドへの投資比率が増加する可能性も考えられます」という指摘もあります。

インドは人口増加と経済成長が続いており、ITサービスや製造業の発展が期待されています。アップルが「iPhone工場を中国からインドへ移転」しているように、製造拠点としての存在感も高まっています。

東南アジア諸国の台頭

ベトナムやフィリピン、インドネシアなどの東南アジア諸国も注目される市場です。これらの国々は若い人口構成と都市化の進展により、消費市場としての魅力が高まっていると言われています。

テクノロジーセクターの発展

新興国市場においても、テクノロジーセクターの存在感が高まっています。特に台湾の半導体産業や韓国の電子機器メーカーは世界的な競争力を持っており、今後もグローバルサプライチェーンにおいて重要な役割を果たすことが期待されています。

新興国株式投資は本当に”やめたほうがいい”のか?

さまざまな意見を総合すると、「新興国株式はやめたほうがいい」という一般的な見解は、必ずしも全ての投資家に当てはまるわけではないようです。

確かに、近年のパフォーマンスや各種リスクを考慮すると、短期的な収益を求める投資家や、リスク許容度の低い投資家にとっては、新興国株式はおすすめできない投資先かもしれません。

しかし、長期的な視点を持ち、適切なリスク管理ができる投資家にとっては、新興国株式はポートフォリオの一部として検討する価値がある投資先と言えそうです。特に、グローバル分散投資の観点から、先進国株式だけでなく新興国株式も一定割合で保有することは、長期的にはリスク分散効果をもたらす可能性があります。

新興国株式の利点と今後の見通し

新興国株式には確かに多くの欠点が指摘されていますが、見落とされがちな利点もあります。

第一に、「世界の投資家から有望な投資先として注目を集めています」という指摘もあるように、長期的な成長ポテンシャルは依然として魅力的です。急速な都市化、中間層の拡大、テクノロジーの普及などの要因が、新興国経済のさらなる発展を後押しする可能性があります。

第二に、「投資対象の分散」という観点からも新興国株式はおすすめできる投資先です。先進国とは異なる経済サイクルや成長要因を持つ新興国に投資することで、ポートフォリオ全体のリスク調整後リターンを向上させる可能性があります。

今後の見通しについては、中国経済の動向や米国の金融政策、グローバルなサプライチェーンの再編など、様々な要素が新興国市場に影響を与えると予想されます。特に、「アップルはiPhone工場を中国からインドへ移転」に見られるような生産拠点の移管傾向は、新興国間での力関係の変化をもたらす可能性があります。

まとめ:バランスのとれた視点で新興国株式を評価する

「新興国株式はおすすめしない」という評判には一定の根拠がありますが、同時に長期的な成長ポテンシャルなど、見落とされがちな利点もあることがわかりました。

新興国株式が本当に「やばい」投資なのかどうかは、個々の投資家の投資目標、リスク許容度、投資期間によって異なります。短期的にはボラティリティが高く、様々なリスクに直面する可能性がありますが、長期的な視点と適切な分散戦略を持つ投資家にとっては、十分に「やばくない」選択肢となり得るでしょう。

最終的には、新興国株式を全面的に避けるのではなく、その特性や自分の投資スタイルに合わせて適切な割合で組み入れることが重要です。MSCIエマージング・マーケット・インデックスなどの指数に連動するETFや投資信託を利用し、定期的に少額ずつ積立投資を行うアプローチは、多くの投資家にとってバランスの取れた選択と言えるでしょう。

新興国株式は確かに”デメリット”もありますが、長期的な視点での”利点”も無視できません。ポートフォリオの一部として適切に組み込むことで、グローバル分散投資の効果を高めることができるでしょう。結局のところ、新興国株式は適切に活用すれば、将来のポートフォリオ成長に貢献する”おすすめ”の投資対象となる可能性も十分にあると言えそうです。

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執筆者のプロフィール
関野 良和
大手国内生命保険会社や保険マーケティングに精通し、保険専門のライターとして多メディアで掲載実績がある。監修業務にも携わっており、独立後101LIFEのメディア運営者として抜擢された。 金融系コンテンツの執筆も得意としており、グローバルマクロの視点から幅広いアセットクラスをカバーしているが、特に日本株投資に注力をしており、独自の切り口でレポートを行う。 趣味のグルメ旅行と情報収集を兼ねた企業訪問により全国を移動しながらグルメ情報にも精通している。
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