小規模企業共済が”危ない”、”危険”といわれているのはなぜ?


”小規模企業共済はヤバイのでやめたほうがいい”と口コミや評判で言われている原因について掘り下げて解説します
本当に小規模企業共済は危ないのか、デメリットとメリットから真相に迫る
小規模企業共済が「危ない」「やばい」などと噂されていることについてネットの口コミや評判から真相を掘り下げてみました。個人事業主や中小企業の経営者にとって老後の備えや節税対策として人気がある制度ですが、一部では「やめたほうがいい」という声も聞かれます。今回は独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下、中小機構)が運営する小規模企業共済についてメリットとデメリットを詳しく解説し、本当に危険なのか、それとも有益な制度なのかを検証していきます。
小規模企業共済の基本情報
小規模企業共済は、小規模企業の経営者や個人事業主などを対象にした、積み立てによる退職金制度です。国の機関である中小機構が運営しており、経営者が退職した場合や事業を廃業した場合に備えて生活資金を積み立てる仕組みです。
この制度の最大の特徴は、毎月の掛金(月額1,000円から70,000円の範囲で500円単位で設定可能)が全額所得控除の対象となるため、節税効果が期待できる点です。また、約162万人が加入しており、資産運用残高は約11兆1,313億円にも上ります(2023年3月現在)。
「危ない」「やばい」と言われる理由
なぜ小規模企業共済が「危ない」「やばい」と言われるのでしょうか。主な理由を解説します。
1. 20年未満での元本割れリスク
最も多く指摘されているデメリットが、掛金納付月数が240ヶ月(20年)未満で任意解約した場合、払い込んだ掛金よりも解約手当金の方が少なくなる(元本割れする)というものです。特に節税目的で加入した方が短期間で解約すると、思わぬ損失を被る可能性があります。
2. 加入期間が短い場合の掛け捨てリスク
加入期間が12か月未満で任意解約すると解約手当金が出ないため、掛け捨てになってしまうというデメリットもあります。つまり、1年未満で解約した場合は支払った掛金が全て戻ってこないということです。これは「やめとけ」と言われる大きな理由の一つとなっています。
3. 共済金受給時の課税問題
小規模企業共済の掛金は所得控除の対象となりますが、共済金を受給する際には課税されます。一時所得または退職所得として扱われますが、受け取り方によっては税負担が大きくなる可能性があるため、注意が必要です。
4. 運営母体の倒産リスク
「小規模企業共済は危ない」という意見の中には、運営母体である中小機構が潰れる(倒産する)ことによるリスクを懸念する声もあります。しかし、中小機構の主な収益源は国から出ているため、相当なことがない限り倒産する可能性は極めて低いと考えられています。
5. 手続きの煩雑さ
みん評の口コミでは、「解約の手続きに手間が掛かりすぎる」という不満の声も見られます。特に廃業時の手続きについて、税務署からの書類が認められないなどの問題が指摘されています。このような手続き上の問題も「やばい」と言われる一因となっています。
6. 資金の流動性低下
掛金を支払うことで手元の自由に使えるお金が減るため、運転資金等に差し支えが出る可能性もあります。特に個人事業主や小規模企業の場合、資金繰りが厳しくなると事業継続に影響が出る可能性があります。
7. 掛金減額時のデメリット
掛金を途中で減額してしまうと、減額分はその後全く運用されなくなり増えないというデメリットもあります。つまり、一度減額すると、その分の運用益が得られなくなるため、長期的な資産形成の観点からはマイナスとなる可能性があります。
8. 保障の限定性
小規模企業共済は保険ではないため、万が一の保障は無いという点も欠点として挙げられています。つまり、生命保険のように死亡時に大きな保障があるわけではなく、あくまでも積み立てた金額に応じた給付しか受けられません。
誤解の検証と事実
しかし、これらの「危ない」という意見の中には誤解も多く含まれています。ここからは事実関係を検証していきます。
1. 「20年未満は損をする」は誤解
「20年未満だと元本割れする」という話は、実は任意解約の場合のみ当てはまります。個人事業主が事業を廃業する場合や死亡した場合などは、「共済金A」として受け取ることができ、たとえ加入期間が短くても元本割れせずに利息付きで退職金として返ってきます。
例えば、「フリーランスをやめて就職しよう」という場合には、個人事業を廃業するわけですから、たとえ加入期間が5年でも、元本割れせずに利息付きで退職金として返ってくるのです。
2. 節税効果の実態
小規模企業共済の掛金は全額が所得控除の対象となるため、高所得者にとっては大きな節税効果があります。例えば、毎月の掛金が満額の70,000円(年間84万円)で課税所得金額が500万の場合、所得税や住民税の節税額は年間で255,600円になるという試算もあります。
ただし、所得が低い場合は節税効果も限定的になるため、自分の所得状況を確認した上で加入を検討する必要があります。
3. 国の制度としての安全性
小規模企業共済は国がつくった制度であり、在籍人数は右肩上がりで増えています。組合員の数が増えると、小規模企業共済が破綻する心配は少なくなり、今後も解約時に共済金の支払いが期待できます。国が運営する制度であることからも、なくなって掛金が無駄になる可能性は低いと考えられています。
4. 貸付制度の有用性
小規模企業共済には契約者貸付制度があり、事業資金等が必要になったときは、掛金納付期間に応じた貸付限度額の範囲内で低金利(年利0.9~1.5%)の貸付を受けられます。これにより、解約せずに資金需要に対応することができるという利点があります。
良い評判と導入するメリット
小規模企業共済には「おすすめ」できる面も多くあります。ここからはその利点を見ていきましょう。
1. 退職金制度としての有用性
小規模企業共済は、個人事業主や中小企業の経営者など、通常退職金を受け取れない立場の人が「経営者の退職金」として活用できる制度です。特に将来の見通しが不透明な中小企業経営者にとっては安心材料となります。
2. 税制優遇の手厚さ
共済金の受け取り時には、一時所得や退職所得として課税されますが、税制上の優遇措置が適用されます。退職所得として受け取る場合、一定の控除が受けられるため、税負担が軽減されます。これは普通の貯蓄や投資と比べても非常に有利な点です。
3. 掛金設定の柔軟性
掛金は月額1,000円から70,000円まで設定可能であり、事業の収益状況やライフステージに応じて調整できるため、無理のない資金運用が可能です。資金繰りが厳しくなった場合でも、最低1,000円まで減額することで継続できるという柔軟性があります。
4. 契約者貸付制度の便利さ
みん評の口コミでは、「資金繰りにはいつも頭を悩ましているのですが、急でつなぎの資金が必要になった時はいつも利用しています」という声もあります。このように、小規模企業共済の契約者貸付制度は資金繰りに困った際の強い味方となります。
5. 加入者からの好評価
東京商工会議所の小規模企業共済に関する口コミでは、「共済金がとてもありがたかったです」「加入した事で安心が増えました」「小さい企業にも大きな安心感を」といった好意的な評価も多く見られます。
6. 「やばくない」と言える安全性
小規模企業共済は国が運営する制度であり、約162万人が加入、資産運用残高は約11兆円を超えていることからも、「やばくない」と言える安全性を備えています。「心配する気持ちはわかりますが、破たんするリスクはほとんど無いといってもよいでしょう」という専門家の意見もあります。
誰におすすめで、誰が避けるべきか
小規模企業共済は全ての事業者にとって理想的な選択肢とは限りません。ここでは、導入を検討すべき人と、避けた方が良い人の特徴を整理します。
小規模企業共済がおすすめな人
- 高所得の個人事業主や経営者:所得税率が高い場合、掛金の所得控除による節税効果が大きくなります。
- 長期的に事業を継続する予定の方:20年以上の長期運用で元本割れのリスクを回避できます。
- 退職金の準備をしたい自営業者:サラリーマンのような退職金制度がない個人事業主にとって、将来の資金確保の手段となります。
- 安定した収入がある事業者:毎月安定して掛金を納められる経営状況の方に適しています。
- 節税と資産形成を両立させたい方:現在の節税と将来の資金確保を同時に実現できます。
小規模企業共済を避けるべき人
- 短期間で事業の廃業や転職を考えている方:12か月未満での解約は掛け捨てとなるリスクがあります。
- 手元の資金に余裕がない方:掛金の支払いで資金繰りが厳しくなる可能性があります。
- 所得が低い個人事業主:所得が低い場合、節税効果は限定的です。
- 流動性の高い資産運用を求める方:掛金は基本的に退職・廃業時まで引き出せません(貸付制度は利用可能)。
- より高いリターンを求める投資家:小規模企業共済の運用利回りは比較的低いため、積極的な資産運用を希望する方には不向きです。
小規模企業共済を上手に活用するポイント
小規模企業共済を最大限に活用するためのポイントをご紹介します。
1. 所得状況に合わせた掛金設定
自分の所得状況を正確に把握し、適切な掛金額を設定することが重要です。所得が多い年は掛金を増額し、厳しい年は減額するなど柔軟に対応しましょう。ただし、減額すると運用上のデメリットがあるため、できるだけ安定した金額を設定することをおすすめします。
2. 長期的な視点での加入
20年未満での任意解約は元本割れのリスクがあるため、長期的な視点で加入することが重要です。少なくとも36ヶ月(3年)以上は継続することで、掛金総額より多くの共済金を受け取れる可能性が高まります。
3. 他の節税・資産形成制度との併用
iDeCo(個人型確定拠出年金)やNISAなど、他の節税制度も併用することで、より効果的な資産形成が可能です。それぞれの特性を理解し、バランスの取れた資産配分を心がけましょう。
4. 共済金の受取方法を検討
共済金は一括で受け取る方法と分割で受け取る方法があります。一括で受け取る場合は退職所得扱い、分割で受け取る場合は公的年金等の雑所得扱いとなります。自分の退職後の収入状況などを考慮して、税負担が少なくなる方法を選びましょう。
5. 契約者貸付制度の活用
資金需要が生じた場合は、解約せずに契約者貸付制度を活用することをおすすめします。年利0.9~1.5%という低金利で借り入れできるため、銀行等からの借入よりも有利な場合が多いです。
結論:小規模企業共済は本当に「危ない」のか?
小規模企業共済が「危ない」「やばい」と言われる理由には、一部事実に基づくものもありますが、多くは誤解や条件付きの注意点です。特に「20年未満は損をする」という点は、任意解約の場合のみ当てはまり、廃業や退職の場合は元本割れしないというのは重要な事実です。
また、国が運営する制度であり、約162万人が加入していることからも、制度自体の安全性は高いと考えられます。破綻リスクを懸念する声もありますが、専門家からは「破たんするリスクはほとんど無い」との見解も示されています。
小規模企業共済は、デメリットを理解した上で適切に活用すれば、個人事業主や中小企業の経営者にとって非常に有用な制度と言えるでしょう。特に節税効果と将来の退職金確保を両立できる点は大きな利点です。
最終的には、自分の事業状況や将来計画、資金状況などを総合的に判断して、小規模企業共済が自分に合った制度かどうかを見極めることが重要です。「やめたほうがいい」という声もある一方で、多くの加入者にとっては「おすすめ」できる制度であると言えます。
正しい知識を身につけ、長期的な視点で活用することで、小規模企業共済は個人事業主や中小企業経営者の強い味方になるでしょう。「危ない」というネガティブな評判よりも、適切な理解と活用方法を知ることが何よりも大切です。
あなたも小規模企業共済について正しく理解し、自分のビジネスや将来設計に合わせた選択をしてみてはいかがでしょうか。小規模企業共済は決して「やばい」制度ではなく、むしろ多くの経営者にとって「やばくない」有益な制度であることが、今回の調査でわかりました。
