SOR(エスオーアール)注文のデメリットが”やばい”といわれているのはなぜ?

SOR(エスオーアール)注文のデメリットが”やばい”といわれているのはなぜ?
ライター:関野 良和

”SOR注文はヤバイのでやめたほうがいい”と口コミや評判で言われている原因について掘り下げて解説します

本当にダメなのか、SOR注文のデメリットとメリットから真相に迫る

SOR(エスオーアール)注文のデメリットが”やばい”という噂についてネットの口コミや評判から真相を掘り下げてみました。SNSや投資関連掲示板では「SOR注文はやめたほうがいい」「デメリットがやばすぎる」といった声が散見されますが、果たしてそれは事実なのでしょうか。それとも誤解から生じた噂なのでしょうか。今回は、SOR注文の仕組みとメリット・デメリットを整理し、「やばい」と言われる理由の真相に迫ります。

SOR注文とは何か

SOR(スマート・オーダー・ルーティング)注文とは、複数の市場から最良の価格を提示している市場を自動的に選択して注文を執行する仕組みのことです。SBI証券、楽天証券、マネックス証券、GMOクリック証券などの主要なネット証券が導入しているシステムです。

具体的には、東京証券取引所(東証)と私設取引システム(PTS)の複数市場から、顧客にとって最も有利な価格を自動的に選んで注文を執行します。例えば、買い注文であればより安い価格、売り注文であればより高い価格を提示している市場に注文を回送するというものです。

GMOクリック証券の説明によると、SOR注文は以下の4つのメリットがあるとされています。

  1. お得に取引!(買いなら安く、売りなら高く取引できる)
  2. 約定率が向上!(取引成立の確率が上がる)
  3. 利用料が無料!(通常の取引手数料のみ)
  4. 効果は100%還元!(価格改善でお得になった差額はすべて顧客に還元)

GMOクリック証券の2023年4月〜8月の実績によると、約定金額100万円当たりの価格改善額は平均184円、SOR経由の株式売買約定数における価格改善効果のある約定数の割合は26%だったと報告されています。

SOR注文が「やばい」と言われる理由

ネット上でSOR注文が「やばい」「やめたほうがいい」と言われる主な理由は、以下の問題点が指摘されているからのようです。

1. HFT業者による先回り問題

最も大きな問題として指摘されているのは、HFT(ハイフリクエンシートレーディング)業者による先回り問題です。2019年11月18日、日経新聞によってSBI証券のSOR問題が報じられ、投資家たちの間に激震が走ったと言われています。

HFT業者とは「High Frequency Trading」の略で、株の売買を短いスパンで大量に行う業者のことを指します。これらの業者は1000分の1秒単位の超高速で取引を行います。注文を出してから約定するまでにタイムラグのあるSORはHFT業者の格好の標的となる可能性があるとされています。

HFTの手口は以下のようなものだと説明されています。

  • 個人投資家の売り気配が出た瞬間、これが約定する前に瞬時に買い注文を出して同株を購入
  • その直後に+1円を上乗せしてすぐさま売る
  • この結果、個人投資家は1円高く株を買わされ、HFTは1円の利ザヤを抜く

このような問題が表面化したのが「SBI証券のSOR問題」として知られています。

2. 最良の条件にならないこともある

SOR注文での取引市場判定は「注文を受け付けた時点」の各市場での取引価格で判定されます。しかし、注文が受け付けられてから市場に注文が届くまでに0.何秒かかるため、「実際に約定する段階」では有利な市場が変わっている可能性もあると指摘されています。

例えば、SOR判定ではPTSの方が安く買えると判定し、PTSに注文が渡ったとしても、PTSに注文が届くときに東証の価格が下がっていた場合、結果的にPTSの方が不利な条件で取引が行われてしまう可能性があるということです。

3. 対象銘柄や注文方法の制限

SOR注文ができる銘柄は限られており、東証に上場している銘柄のみとなっています。つまり東証一部、東証二部、マザーズ、ジャスダック上場の銘柄のみが対象です。地方証券取引所のみに上場している銘柄は取引できません。

また、SOR注文では「逆指値注文」や執行条件付注文(寄成・引成・寄指・引指・不成・IOC成・IOC指)が選べないという制限もあります。

4. SOR対応の証券会社が少ない

SOR注文に対応している証券会社は数少ないと言われています。主な対応証券会社は、SBI証券、楽天証券、マネックス証券、auカブコム証券(現・三菱UFJ eスマート証券)などの一部に限られているようです。

証券会社の対応と「誤解」の可能性

しかし、上記の「やばい」と言われる問題点、特にHFT業者による先回り問題については、各証券会社が対応策を講じていると主張しています。

マネックス証券の対応

マネックス証券は2019年11月18日の報道を受けて、以下のように声明を出しています。

  • TIF(タイム・イン・フォース)は提供しておらず、お客様の注文を事前にHFT業者等が確認することはできない
  • PTSへの注文がPTSで約定しない場合は即時にキャンセルし、東証に注文する(IOC注文という形式で発注)
  • SORのチェックを外すことで、東証に注文を直接出すことも可能

マネックス証券は「当社の提供するSORシステムではそのような形で個人投資家に不利な状態は発生いたしません」と明言しています。

楽天証券の対応

楽天証券も同様に、「SOR注文を利用したPTSでの取引は成立可能な数量のみを執行するIOC注文を利用しており、PTSに注文をわずかの時間でも残すような注文方法は利用しておりません」と説明しています。

また、外部第三者機関(株式会社QUICK)による価格改善効果のレポートを毎月公開していると述べています。

SBI証券の対応

SBI証券も「SOR対象銘柄はPTS市場等発注時には、成行は最良気配指値として、指値は発注いただいた指値価格または、最良気配指値として発注いたします」と説明しています。また、PTS市場等にて取次ぐ際にはIOC注文で発注すると明記しています。

このように、各証券会社はHFT業者による先回り問題に対応策を講じていると主張しており、2019年の報道後に改善されている可能性があります。

SOR注文のメリットと実績

一方で、SOR注文には多くのメリットがあると各証券会社は強調しています。

価格改善効果

GMOクリック証券の実績によると、SOR経由の株式売買約定数の26%で価格改善効果があり、約定金額100万円当たり平均184円の価格改善がされたと報告されています。

マネックス証券も「SORでの価格改善効果はすべてお客様に還元いたします。価格改善の効果を最大限受けることができます」と説明しています。

約定率の向上

複数市場に同時に注文を出すことで、約定率も向上するとされています。GMOクリック証券は「東証単独注文よりも複数市場への注文で約定率のUPが期待できます」としています。

手数料無料の可能性

楽天証券では、SOR注文を利用することで手数料が無料になる「ゼロコース」を提供しています。

「ゼロコースをご利用される場合には、当社のSORやRクロス(楽天証券が提供する社内取引システム/ダークプール)の内容を十分ご理解のうえでその利用に同意いただく必要があります」と説明されています。

SOR注文に関する誤解

SOR注文に関しては、いくつかの誤解も存在するようです。

誤解1:すべてのSOR注文が危険

全てのSOR注文が危険というわけではなく、証券会社によって対応が異なります。マネックス証券のように、HFT業者による先回り問題に対応策を講じている証券会社もあります。

誤解2:SOR注文は価格改善効果がない

GMOクリック証券の実績によると、26%の注文で価格改善効果があったと報告されています。全ての注文で価格改善効果があるわけではありませんが、一定の効果は確認されているようです。

誤解3:SOR注文は手数料が高い

SOR注文自体の利用料は無料であり、通常の取引手数料のみで利用できます。むしろ楽天証券のように、SOR注文を利用することで手数料が無料になるケースもあります。

SOR注文の正しい使い方

SOR注文を安全に利用するためには、以下の点に注意するとよいようです。

1. 証券会社の仕組みを理解する

各証券会社のSOR注文の仕組みや対応策を理解することが重要です。マネックス証券は「その仕組みをよく知り、お客様自身の判断と責任において行うようお願いいたします」と述べています。

2. 必要に応じてSOR指定を解除する

多くの証券会社ではSOR注文がデフォルト設定になっていますが、必要に応じてチェックを外すことも可能です。例えばSBI証券では「お客さまの任意で設定画面より「SOR指定」または「東証指定」を選択することが可能です」と説明しています。

3. 価格改善効果を確認する

マネックス証券、楽天証券などでは価格改善効果のレポートを公開しています。自分のSOR注文でどの程度の価格改善効果があったのかを確認することも重要です。

SOR注文はやばくない?結論

SOR注文は「やばい」と言われることもありますが、実際には証券会社によって対応策が講じられ、多くの場合はメリットの方が大きい可能性があります。

2019年に報道されたHFT業者による先回り問題については、各証券会社が対応策を講じており、IOC注文の活用などにより改善されている可能性が高いようです。

また、SOR注文には価格改善効果や約定率向上といったメリットがあり、楽天証券のように手数料無料になるケースもあります。

そのため、SOR注文は必ずしも「やめたほうがいい」ものではなく、むしろ上手に活用すれば投資家にとって「おすすめ」できる取引手法と言えるかもしれません。

重要なのは、各証券会社のSOR注文の仕組みや特徴を理解し、自分の投資スタイルに合わせて活用することです。短期売買を多く行うデイトレーダーやスキャルパーは注意が必要な場合もありますが、中長期の投資家であれば、SOR注文の「利点」を活かした取引が可能でしょう。

最終的には、投資家自身が正しい知識を持ち、自分の責任で判断することが大切です。SOR注文について「やばい」という噂に惑わされず、メリットとデメリットを冷静に判断して活用していきましょう。

主要ネット証券のSOR注文比較

ここでは、主要なネット証券のSOR注文の特徴を比較してみます。

SBI証券

SBI証券のSOR注文では、以下の5つの市場で提示されている気配価格を監視しています。

  1. 証券取引所(当社優先市場)
  2. ジャパンネクストPTSの第1市場(J-Market)
  3. ジャパンネクストPTSの第2市場(X-Market)
  4. 大阪デジタルエクスチェンジ社のPTS(ODX)
  5. SBIクロス(ダークプール)

SBI証券では「少しでも安く買いたい、高く売りたいというお客さまにおすすめの注文方法です」と説明しています。

マネックス証券

マネックス証券のSOR注文の特長として以下を挙げています。

  1. 約定機会と価格改善機会の提供(東証、PTS、ダークプールでの3市場での約定機会)
  2. 複雑な手続きは不要で簡単注文
  3. 価格改善効果は100%還元、月次評価レポートも公表

また、マネックス証券はTIF(タイム・イン・フォース)を提供しておらず、HFT業者による先回り問題には対応していると主張しています。

楽天証券

楽天証券のSOR注文は、東証、JAXPTS、CboePTS、ジャパンネクストPTSの最大4市場にアクセスします。

楽天証券では、SOR注文を利用することで手数料が無料になる「ゼロコース」を提供しています。

GMOクリック証券

GMOクリック証券は、東京証券取引所(東証)と、CboePTSの第1市場(Cboe-Alpha)および第2市場(Cboe-Select)で提示されている気配値を監視し、最良の条件での取引を目指しています。

2023年4月〜8月の実績では、約定金額100万円当たりの価格改善額は平均184円、SOR経由の株式売買約定数における価格改善効果のある約定数の割合は26%だったと報告しています。

SOR注文をより安全に使うためのポイント

SOR注文を利用する際に、より安全に使うためのポイントをいくつか紹介します。

1. 証券会社の選択

HFT業者による先回り問題に対応策を講じている証券会社を選ぶことが重要です。マネックス証券やSBI証券などは、この問題に対して対応していると主張しています。

2. 投資スタイルに合わせた利用

短期売買を多く行うデイトレーダーやスキャルパーは、取引時間や価格変動に敏感なため、SOR注文の特性を理解した上で利用する必要があります。一方、中長期投資家であれば、価格改善効果を活かした利用がおすすめです。

3. 価格改善効果の確認

SOR注文を利用した後は、実際にどの程度の価格改善効果があったのかを確認することも重要です。マネックス証券では「SOR注文が約定した場合、注文約定明細で価格改善効果が表示されます。改善効果があった場合はプラス(+)で、不利方向の価格効果はマイナス(-)でその金額が表示されます」と説明しています。

4. 必要に応じてSOR指定を解除

逆指値注文や執行条件付注文を利用したい場合など、必要に応じてSOR指定を解除することも重要です。多くの証券会社ではSOR注文がデフォルト設定になっていますが、チェックを外すことで東証に直接注文することも可能です。

まとめ:SOR注文は「やばい」のか

SOR注文が「やばい」「やめたほうがいい」と言われる主な理由は、2019年に報道されたHFT業者による先回り問題や、最良の条件にならないケースがあるという点です。しかし、各証券会社はこれらの問題に対応策を講じており、現在ではそのリスクは軽減されている可能性が高いようです。

むしろ、SOR注文には価格改善効果や約定率向上といったメリットがあり、楽天証券のように手数料無料になるケースもあります。GMOクリック証券の実績によると、26%の注文で価格改善効果があり、約定金額100万円当たり平均184円の価格改善がされたと報告されています。

したがって、SOR注文は必ずしも「やばい」ものではなく、証券会社の対応や自分の投資スタイルに合わせて活用すれば、むしろ「おすすめ」できる取引手法と言えるでしょう。

重要なのは、各証券会社のSOR注文の仕組みや特徴を理解し、自分の責任で判断することです。SOR注文について誤解を持たず、メリットとデメリットを冷静に判断して活用していきましょう。

SOR注文を上手に活用すれば、少しでも有利な価格での取引が可能になり、長期的には投資成績の向上にも寄与する可能性があります。株式投資における「利点」の一つとして、SOR注文を理解し、活用していくことをおすすめします。

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執筆者のプロフィール
関野 良和
大手国内生命保険会社や保険マーケティングに精通し、保険専門のライターとして多メディアで掲載実績がある。監修業務にも携わっており、独立後101LIFEのメディア運営者として抜擢された。 金融系コンテンツの執筆も得意としており、グローバルマクロの視点から幅広いアセットクラスをカバーしているが、特に日本株投資に注力をしており、独自の切り口でレポートを行う。 趣味のグルメ旅行と情報収集を兼ねた企業訪問により全国を移動しながらグルメ情報にも精通している。
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