米国株の高配当ETF「VYM」は”やめたほうがいい”といわれているのはなぜ?

米国株の高配当ETF「VYM」は”やめたほうがいい”といわれているのはなぜ?
ライター:関野 良和

”「VYM」はヤバイのでやめとけ”と口コミや評判で言われている原因について掘り下げて解説します

高配当ETF「VYM」は本当に”やばい”のか、デメリットとメリットから真相に迫る

米国株の高配当ETF「VYM(Vanguard High Dividend Yield ETF)」についてネットの口コミや評判から真相を掘り下げてみました。近年、資産形成の選択肢として人気を集める米国ETFですが、VYMに関しては「おすすめしない」という声も少なくありません。本当にVYMは投資対象として避けるべきなのでしょうか?それとも誤解に基づいた評判なのでしょうか?様々な角度から検証していきます。

VYMとは?基本情報と特徴

まずは、VYMの基本的な情報を確認しておきましょう。

VYMは、正式名称を「Vanguard High Dividend Yield ETF(バンガード・米国高配当株式ETF)」といい、世界3大運用会社の一つであるバンガード社が2006年11月に設定したETFです。FTSEハイディビデンド・イールド・インデックスに連動したパフォーマンスを目指して運用されており、米国で平均以上の配当を出す普通株で構成されています。

VYMの重要な数字

項目 詳細
運用会社 バンガード社
設定日 2006年11月
構成銘柄数 529銘柄(2025年2月末時点)
直近配当利回り 2.63%(2025年3月時点)
経費率 0.06%
分配金頻度 四半期ごと(3月、6月、9月、12月)

VYMの主要構成銘柄とセクター比率

VYMの上位構成銘柄には、以下のような米国を代表する大企業が含まれています。

  • ブロードコム(AVGO)- 通信
  • JPモルガン・チェース(JPM)- 金融
  • エクソンモービル(XOM)- エネルギー
  • ウォルマート(WMT)- 一般消費財
  • プロクター・アンド・ギャンブル(PG)- 生活必需品
  • ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)- ヘルスケア
  • ホーム・デポ(HD)- 一般消費財
  • アッヴィ(ABBV)- ヘルスケア
  • バンク・オブ・アメリカ(BAC)- 金融
  • コカ・コーラ(KO)- 生活必需品

セクター比率では、金融セクターの比率が最も高く、約20%を超えていることが特徴的です。それに続いて、産業、ヘルスケア、生活必需品、一般消費財・サービス、テクノロジーなどが10%前後の比率で構成されています。このセクター配分は、VYMの運用方針や投資パフォーマンスに大きな影響を与えていると言われています。

VYMが「おすすめしない」と言われる主な理由

ネット上ではVYMについて「やめとけ」「おすすめしない」という声が散見されます。その理由を詳しく見ていきましょう。

1. 配当利回りが他の高配当ETFより低い

VYMは「高配当ETF」として知られていますが、実際の配当利回りは2.63%(2025年3月時点)とそれほど高くありません。同じ高配当ETFとして知られるSPYD(S&P 500高配当株ETF)やHDV(iShares高配当ETF)と比較すると、VYMの配当利回りは控えめであることがデメリットとして挙げられています。

例えば、2024年6月18日時点での比較では以下のようになっていたようです。

ETF 配当利回り
VYM 2.20%
SPYD 3.71%
VOO 1.23%
VTI 1.36%
QQQ 0.47%
SPY 1.17%

このように、SPYDと比較すると1.5%以上も差があり、純粋に配当利回りを重視する投資家にとっては「物足りない」と感じられることがあるようです。

2. 成熟企業が多く、株価上昇の期待値が低い

VYMの構成銘柄には成熟した大企業が多く含まれており、高い成長率よりも安定した配当を重視する企業が中心となっています。そのため、キャピタルゲイン(値上がり益)を追求する投資家にとっては魅力的ではない可能性があるとも言われています。

特に成長性の高いテクノロジーセクターの比率が比較的低いため、S&P500連動のVOOやナスダック100のQQQなどと比べて株価の上昇率が劣る傾向があるようです。これが「やばい」と評される理由の一つになっているようです。

3. セクター比率の偏り

VYMは金融セクターの比率が約20%以上と高く、景気敏感株が多く含まれています。景気が悪化すると金融株が大きく下落するリスクがあり、ETF全体のパフォーマンスが悪化する可能性があることが欠点として指摘されています。

セクター分散という観点では、VYMだけでは十分な分散が達成できない可能性があると考える投資家もいるようです。

4. S&P500関連ETFのほうが優れている

VYMよりもS&P500に連動するETF(VOOやSPYなど)のほうが長期的なパフォーマンスが優れているという意見もあります。実際に、約12年間のVOOとVYMのチャートを比較すると、VOOのほうが途中から上昇率が大きくなっているとの分析もあるようです。

価格上昇の観点だけで見れば、S&P500連動のETFの方が優れているという評価につながっているようです。

5. 為替リスクがある

VYMは米国株ETFであるため、日本からの投資においては為替リスクを考慮する必要があります。円高局面では、円建ての評価額が目減りするリスクがあり、特に短期間での投資を考えている場合、為替変動による影響が大きくなる可能性があるとも言われています。

6. 二重課税のリスク

分配金に対する日米からの二重課税を避けたい場合、分配金を受け取った翌年の3月15日までに確定申告を行う必要があるとされています。米国の税率は10%、それに加えて日本の税率20.315%も発生してしまい、合計約30%が税金として受け取れなくなる可能性があるという点も、VYMを「やめたほうがいい」との意見につながっているようです。

VYMの「おすすめ」できる利点とメリット

一方で、VYMには多くの利点やメリットもあります。これらの特徴が、多くの投資家にVYMを選ばせる理由にもなっているようです。

1. 低い経費率

VYMの経費率は0.06%と非常に低く設定されています。これは100万円のVYMに対し年間600円の経費が必要であることを意味し、同じ高配当ETFであるSPYD、HDVよりも低いため、経済的な負担を極力抑えたETF投資が可能となります。長期投資の場合、この低コストは大きなアドバンテージになり得ます。

2. 優れた分散投資効果

VYMは529銘柄(2025年2月末時点)もの銘柄に分散投資しており、他の高配当ETFに比べ圧倒的に多い数の銘柄を保有しています。ETF1銘柄だけで500社以上への分散投資を行えるので、価格変動リスクを大幅に抑えられるメリットがあります。また、各社の企業分析をVanguard社に一任し、プロが選定した企業への投資を簡単に行える点も大きな利点です。

3. 安定した値上がり率

高配当が注目されるVYMですが、ETFそのものの値上がりも非常に好調だと言われています。直近5年でみれば33%以上、設定以来では110%を超える値上がり率を記録しており、分配を受け取りつつ値上がりも期待できる長期投資対象の銘柄として評価されています。

実際に1年間VYMに投資した投資家の例では、約9.8%のリターンが得られたという報告もあります。「総投資額:2,345,710円、時価評価額:2,575,907円、評価損益:+230,198円」という具体的なケースも紹介されており、決して「やばくない」パフォーマンスを示しています。

4. バンガード社の信頼性

VYMは世界最大級の資産運用会社の一つであるバンガード社が運用していることも大きな強みです。バンガード社は長年の運用実績と高い信頼性を持ち、個人投資家向けの低コスト投資ソリューションを提供してきた実績があります。そのような信頼できる運用会社によって管理されているという安心感は、特に初心者投資家にとって重要な要素と言えるでしょう。

他の高配当ETFとの比較

VYMの評価をより客観的に行うためには、他の高配当ETFとの比較が有効です。特によく比較されるのは、SPYD(S&P 500高配当株ETF)とHDV(iShares高配当ETF)です。

VYMとSPYDの比較

SPYDはS&P 500の中から配当利回りが高い上位80銘柄程度に投資するETFです。VYMと比べた際の主な違いは以下の通りです。

  • 配当利回り: SPYDの方が高い(3.71%対VYMの2.20%、2024年6月時点)
  • 銘柄数: VYMの方が圧倒的に多い(529銘柄対SPYDの約80銘柄)
  • 分散効果: VYMの方が優れている
  • 経費率: VYMの方が低い

SPYDは配当重視の投資家には魅力的ですが、銘柄数が少ないため、VYMに比べてリスクが高まる可能性があると言われています。

VYMとHDVの比較

HDVはiShares社が運用する高配当ETFで、財務状況が健全な高配当企業に焦点を当てています。VYMとの主な違いは:

  • 銘柄選定基準: HDVは財務健全性を重視
  • 銘柄数: VYMの方が多い
  • セクター配分: やや異なる(HDVはエネルギー、ヘルスケアの比率が高い傾向)
  • 経費率: VYMの方が低い

HDVは財務健全性を重視した安定志向の投資家に適していると言われています。

VYMとVOO(S&P500 ETF)の比較

VOOはS&P500指数に連動するETFで、成長性と配当のバランスを求める投資家に人気です。

  • 配当利回り: VYMの方が高い(2.20%対VOOの1.23%、2024年6月時点)
  • 株価上昇率: 長期的にはVOOの方が優れている傾向
  • セクター分散: VOOの方がバランスが取れている
  • 経費率: 同程度に低い

価格上昇を重視するならVOO、配当を重視するならVYMという選択になりそうです。

VYMはどのような投資家に適しているのか?

これまでの分析を踏まえると、VYMはすべての投資家に適しているわけではなく、特定のタイプの投資家に適していると考えられます。

VYMが適している投資家

  1. 長期投資を計画している投資家 長期保有を前提とした安定志向の投資家にとって、VYMの安定した配当と緩やかな価格上昇は魅力的です。
  2. 分散投資を重視する投資家 500社以上の銘柄に分散投資できるVYMは、リスク分散を重視する投資家に適しています。
  3. 配当と値上がりの両方を期待する投資家 純粋な高配当だけでなく、適度な値上がりも期待する投資家にとって、VYMはバランスの取れた選択肢となり得ます。
  4. 低コスト投資を求める投資家 経費率0.06%という低コストは、長期投資において大きなアドバンテージとなります。

VYMが適していない投資家

  1. 短期的な値上がり益を追求する投資家 キャピタルゲインを最優先する投資家にとっては、VOOやQQQなどの成長型ETFの方が適しているでしょう。
  2. 純粋に高配当を求める投資家 最大限の配当利回りを求める投資家には、SPYDなどの方が適しているかもしれません。
  3. 短期投資を計画している投資家 為替リスクなどを考慮すると、短期間での投資ではVYMのメリットを十分に享受できない可能性があります。

実際の投資体験から見るVYMの評価

検索結果には、実際にVYMに投資した人の体験談も含まれています。ある投資家は1年間VYMに投資し、約9.8%のリターンを得たと報告しています。

総投資額:2,345,710円
時価評価額:2,575,907円
評価損益:+230,198円(約9.8%のリターン)
1年間の配当金合計:270.58 USドル(約40,587円、1ドル=150円換算)

この投資家は当初+10万円程度の利益を見込んでいたところ、実際には+23万円という結果になり驚いたとコメントしています。このような実例からも、VYMが「やばくない」パフォーマンスを示す可能性があることがわかります。

VYMに関する誤解と真実

VYMに関しては、いくつかの誤解も広がっているようです。以下に主な誤解とその真実を整理します。

誤解1:「VYMは配当が低いから意味がない」

確かにSPYDなど一部の高配当ETFと比較すると配当利回りは低めですが、S&P500全体(VOOなど)と比較すれば依然として高い配当利回りを誇っています。また、配当だけでなく価格上昇も含めたトータルリターンで考えることが重要です。

誤解2:「VYMは値上がりしない」

VYMは直近5年で33%以上、設定以来110%以上の値上がりを記録しているとされており、決して値上がりしないわけではありません。ただし、テクノロジー株中心のETFなどと比較すると上昇率は控えめである可能性はあります。

誤解3:「VYMは分散投資には不向き」

529銘柄に投資するVYMは、むしろ分散投資の観点では非常に優れていると言えるでしょう。セクター比率に多少の偏りはあるものの、単一銘柄リスクは大きく軽減されています。

誤解4:「VYMは初心者には複雑すぎる」

実際には、ETF1銘柄を購入するだけで500社以上に分散投資できるVYMは、個別株投資よりもはるかにシンプルであり、初心者にも取り組みやすい投資対象と言えるでしょう。

まとめ:VYMは本当に「おすすめしない」ETFなのか?

ここまでVYMについて多角的に検討してきましたが、結論としては「投資目的によって評価が分かれる」と言えそうです。

VYMは「やめとけ」と言われることもありますが、その理由の多くは特定の投資目的(高配当重視や短期的な値上がり重視)との相性が良くないことに起因しています。一方で、長期的な資産形成や分散投資を重視する投資家にとっては、経費率の低さや銘柄数の多さなど、多くの利点を持つETFと言えるでしょう。

配当と値上がりのバランス、分散投資効果、低コストなどを総合的に評価すると、長期投資家にとってVYMは決して「やばい」投資先ではなく、むしろ「おすすめ」できる選択肢の一つと考えられます。

ただし、最適な投資先は個人の投資目標、リスク許容度、投資期間などによって異なりますので、自分の状況に合わせて検討することが重要です。また、VYM単体での投資だけでなく、SPYDやVOOなど他のETFと組み合わせたポートフォリオ構築も検討する価値があるでしょう。

最終的には、VYMに対する「おすすめしない」という評判は、特定の投資目的に基づいた批判であり、すべての投資家にとって当てはまるものではないと考えられます。投資は自分自身の目標に合った選択をすることが何よりも重要です。

投資を始める際には、様々な意見に惑わされず、自分の投資目標に合ったETFを選ぶことをお勧めします。VYMを含む様々なETFについて理解を深め、自分自身の資産形成に最適な選択をしていきましょう。

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執筆者のプロフィール
関野 良和
大手国内生命保険会社や保険マーケティングに精通し、保険専門のライターとして多メディアで掲載実績がある。監修業務にも携わっており、独立後101LIFEのメディア運営者として抜擢された。 金融系コンテンツの執筆も得意としており、グローバルマクロの視点から幅広いアセットクラスをカバーしているが、特に日本株投資に注力をしており、独自の切り口でレポートを行う。 趣味のグルメ旅行と情報収集を兼ねた企業訪問により全国を移動しながらグルメ情報にも精通している。
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