リカーリングとストックの違いってなに? 2つのビジネスモデルをわかりやすく解説

リカーリングとストックの違いってなに? 2つのビジネスモデルをわかりやすく解説
ライター:関野 良和

リカーリングとストックの違い、ビジネスモデルの基本構造や仕組みなどを比較してわかりやすく解説

ビジネス環境が急速に変化する中、安定した収益基盤の構築は企業の重要な課題となっています。特に「リカーリング」や「ストック」といった言葉が金融業界やビジネスシーンで頻繁に聞かれるようになりました。これらは一見似ているように思えますが、明確な違いがあります。サブスクリプションサービスの普及や企業のビジネスモデル変革に伴い、これらの概念を正確に理解することはZ世代を含む若い世代のビジネスパーソンにとって不可欠なスキルとなっています。

継続的な収益を生み出すビジネスモデルは、単発取引型のフロービジネスと異なり、長期的な顧客関係を築きながら安定した売上を積み上げていきます。しかし「リカーリング」と「ストック」、そして「サブスクリプション」の概念は混同されがちであり、その明確な違いを押さえておくことが重要です。2025年現在、これらのビジネスモデルはあらゆる業界で採用され、デジタルトランスフォーメーションと共に進化し続けています。

この記事でわかること

  • ビジネスモデルの基本分類: フロー型とストック型の違いと各ビジネスモデルの基本構造を理解できます。多くの企業が単発取引から継続型収益へとシフトしている理由も解説します。
  • ストックビジネスの概念と特徴: 継続的な収益構造を持つストックビジネスの仕組みと、なぜ企業価値評価において重視されるのかがわかります。
  • リカーリングビジネスの独自性: リカーリングがストックビジネスの中でどのように位置づけられ、サブスクリプションとどう異なるのかを具体例を交えて理解できます。
  • 各ビジネスモデルの活用法: 業種や事業規模に応じた最適なビジネスモデルの選び方と、取り入れる際の実践的なステップを学べます。
  • 日本市場の成功事例: 江戸時代から続く「富山の置薬」から最新のテクノロジー企業まで、日本における成功例から学ぶポイントを紹介します。

ビジネスモデルの二大分類:フロー型とストック型

フロー型:単発取引で完結するビジネス

フロー型ビジネスとは、商品やサービスを単発で提供し、その都度収益を得るビジネスモデルです。例えば、コンビニエンスストアやスーパーマーケットでの商品購入、レストランでの食事、不動産仲介、Web制作などが該当します。「フロー」という名前の通り、常に新しい取引の「流れ」が必要であり、収益を上げるためには継続的に新規顧客を獲得したり、リピーターを増やしたりする必要があります。

フロー型ビジネスの特徴は、その場で取引が完結することにあります。フロー型ビジネスでは商品の販売数量や単価、顧客の購入頻度が収益を大きく左右します。これらの要素は市場のトレンドや競合他社の動向、経済状況など外部環境の影響を受けやすく、収益が不安定になりがちです。例えば、飲食店は天候や季節によって客足が大きく変わりますし、小売店は流行の移り変わりによって売上が左右されることがあります。

【用語解説】フロービジネス
フロービジネスとは、「流れ・工程」を意味する「フロー」という言葉が示すように、常に新規顧客を獲得することで収益を生み出すビジネスモデルです。スーパー、コンビニ、居酒屋、ファミリーレストランなど一般的な小売業のほとんどがこれに該当します。リピーターも存在しますが、基本的には一度の購入で取引が完結するため、ストックビジネスと比較すると売上が安定しにくいという特徴があります。

ストック型:継続的な収益を積み上げるビジネス

対して、ストック型ビジネスは「在庫・蓄積」を意味する「ストック」という言葉通り、継続的な取引関係から安定した収益を積み上げていくビジネスモデルです。顧客と一定期間にわたる契約を結び、継続的に商品やサービスを提供することで、長期間にわたって安定した収益を得ることができます。

ストック型ビジネスの例としては、会員制のジムやゴルフクラブ、学習塾、電気・ガスなどのライフライン、通信サービス、各種サブスクリプションサービスなどが挙げられます。これらのビジネスでは、顧客との長期的な関係性を構築することが重要となり、一度獲得した顧客から継続的に収益を得られる仕組みとなっています。

ストック型ビジネスの大きな特徴は、新規顧客を獲得するためのコストを最初に費やした後は、その顧客から継続的に収益を得られる点にあります。そのため、顧客が増えれば増えるほど、安定した収益基盤が構築されていきます。これにより、長期的な事業計画を立てやすく、景気変動などの外部要因の影響も受けにくいという利点があります。

ストックビジネスとは:蓄積型収益モデルの本質

ストックビジネスの定義と基本構造

ストックビジネスとは、蓄積型の収入構造を持ったビジネスモデルです。顧客と契約を結んで会員を増やし、継続的な収入を蓄積(ストック)していく仕組みといえます。近年では「サブスクリプション」とも呼ばれることが多く、会員制サービスなどの形で顧客を増やし、継続的に収入を得られるため、安定的な収益につながりやすいのが特徴です。

ストックビジネスの基本構造は、「顧客獲得→継続的な価値提供→収益の蓄積」というサイクルです。一度顧客を獲得すれば、その後はサービス品質や顧客満足度を維持することで、継続的に収益を得ることができます。CRMツールなどを活用して会員や顧客とのコミュニケーションを継続的に保ち、顧客満足度を高めることで、優良顧客となり長期間の安定収入につながります。

【用語解説】ストックビジネス
ストックビジネスとは、在庫や蓄積などの意味を持つ「ストック」から派生した言葉で、蓄積型の収入構造を持ったビジネスモデルを指します。顧客と契約を結び会員を増やして継続収入をストックしていく仕組みであり、安定的な収益基盤を構築できるのが最大の特徴です。近年ではサブスクリプションという言葉でも表現されることが多くなっています。

ストックビジネスの具体例

ストックビジネスの具体例としては、以下のようなものが挙げられます。

  1. 定期購入型サービス: 健康食品やサプリメント、日用品などの定期配送サービス。最初の申し込み時に定期的な配送を約束することで、継続的な収益を得るモデルです。
  2. 会員制サービス: フィットネスクラブやゴルフ会員権、各種クラブ活動など、会員費を定期的に支払うことでサービスを受けられるモデル。
  3. ライフラインサービス: 電気、ガス、水道などの公共サービス。生活に必須のサービスを継続的に提供し、使用量に応じた料金を定期的に徴収します。
  4. 通信サービス: インターネット接続サービスや携帯電話契約など、月額料金制のサービス。
  5. サブスクリプションサービス: Netflix、Amazon Prime、Spotifyなどの音楽・動画配信サービス、Adobe Creative Cloudなどのソフトウェア使用権など、月額または年額で利用できるサービス。

これらのビジネスに共通するのは、顧客との継続的な関係性構築により、安定した収益基盤を形成している点です。一度顧客を獲得すれば、その後は解約されない限り継続的に収益が得られるという特性があります。

リカーリングビジネスの仕組み:繰り返し収益の戦略

リカーリングの定義と特性

「リカーリング(Recurring)」という言葉は英語で「繰り返す」や「循環する」という意味を持ちます。ビジネス用語としては、継続的な収益(リカーリングレベニュー)を得ることを目的としたストックビジネスを指します。リカーリングビジネスはストックビジネスの一種ですが、特定の特性を持っています。

リカーリングビジネスの最大の特徴は、基本となる商品やサービス(本体製品など)を提供した後、関連する消耗品やサービスを継続的に購入してもらうことで収益を上げるモデルである点です。多くの場合、従量制の課金体系を採用しており、顧客の使用量や消費量に応じて料金が変動します。

例えば、プリンター本体を購入した後、インクカートリッジを継続的に購入する必要があるビジネスモデルはリカーリングの典型例です。プリンター本体は比較的安価で提供されることも多く、本当の収益源はインクカートリッジにあります。

【用語解説】リカーリング
リカーリング(Recurring)とは、「繰り返す」「循環する」という意味の英語から派生したビジネス用語で、継続的な収益(リカーリングレベニュー)を実現する目的で行われるストックビジネスを指します。特に、基本となる製品(本体)を販売した後、その使用に必要な消耗品や関連サービスを継続的に提供することで収益を上げるビジネスモデルを指すことが多いです。

リカーリングビジネスの歴史的背景

リカーリングビジネスの先駆けとされているのは、アメリカの剃刀メーカーであるジレット(Gillette)社です。ジレット社は、剃刀本体(レーザー)を無料または超低価格で配布し、ユーザーに利益率の高い替刃を継続的に購入してもらうことで、安定した収益を獲得することに成功しました。このビジネスモデルは「レーザー&ブレードモデル」とも呼ばれ、多くのビジネスに影響を与えました。

日本においても、江戸時代から続く「富山の置薬」が日本最古のリカーリングビジネスと言われています。これは「配置販売」という販売形態を取り、一般家庭に医薬品の入った箱を預け、半年おきに中身を確認し、使用分の代金を請求するというモデルです。廣貫堂などの企業は、このビジネスモデルにより安定した積み上げ収益を実現し、グループ売上が130億円にまで達しています。

「富山の置薬」のビジネスモデルの特徴は、「先用後利(せんようこうり)」という考え方にあります。これは、まず商品を使ってもらい(先用)、後から対価を得る(後利)という方法です。この考え方は、現代のサブスクリプションやリカーリングビジネスにも通じるものがあります。

リカーリングビジネスの具体例

リカーリングビジネスの具体例としては、以下のようなものが挙げられます。

  1. プリンターとインク: プリンター本体は比較的安価で販売し、インクカートリッジの継続購入で収益を上げるモデル。
  2. 剃刀と替刃: ジレット社が先駆けとなった、本体(ハンドル)を安価で提供し、替刃の販売で収益を上げるモデル。
  3. コーヒーマシンとカプセル: ネスプレッソなどのコーヒーマシンを購入すると、専用のコーヒーカプセルを継続的に購入する必要がある仕組み。
  4. ゲーム機とゲームソフト: ゲーム機本体の販売後、ゲームソフトやダウンロードコンテンツの販売で継続的に収益を得るモデル。
  5. 携帯電話料金: 基本料金に加え、データ通信量に応じた従量制の課金体系。
  6. ソーシャルゲームの課金: 基本プレイは無料だが、アイテム購入などで課金するフリーミアムモデル。

これらの事例に共通するのは、初期導入製品(本体)があり、その使用に伴って継続的に消耗品やサービスを購入する必要がある点です。リカーリングビジネスでは、初期製品よりも継続的に販売される消耗品やサービスに高い利益率を設定することが多いです。

リカーリングとサブスクリプションの決定的な違い

課金モデルの違い:従量制vs定額制

リカーリングとサブスクリプションは、どちらもストック型ビジネスの一種ですが、課金の仕組みに大きな違いがあります。

サブスクリプションは定額制のビジネスモデルです。顧客は一定期間(通常は月額または年額)のサービス利用権に対して、定期的に決まった金額を支払います。例えば、NetflixやAmazon Primeなどの動画配信サービスでは、月額料金を支払うことで、提供されているコンテンツを自由に視聴することができます。サービスや機能、料金が異なる複数のプランが用意されていることが多く、プランに応じて毎月同じ額を支払うのが特徴です。

一方、リカーリングは従量制のビジネスモデルです。基本となる製品やサービスを提供した後、消耗品や付属品などの使用量に応じて課金します。例えば、プリンターとインクの関係では、インクの使用量(消費量)に応じて顧客の支払う金額が変わります。母体となる本体機器・コアサービスを提供し、その後、消耗品等の付属・付随する商品もしくはサービスを顧客が消費した量によって課金額が定まるモデルです。

具体的な比較例で理解する両者の違い

サブスクリプションとリカーリングの違いを理解するために、具体的な例で比較してみましょう。

ゲームの場合

  • サブスクリプション型:定額制で遊び放題のゲームサービス(例:Xbox Game Pass)
  • リカーリング型:基本ゲームは購入済みで、追加コンテンツや課金アイテムを都度購入(例:ソーシャルゲームの課金)

音楽の場合

  • サブスクリプション型:月額料金で音楽聴き放題(例:Spotify)
  • リカーリング型:お気に入りの曲だけを都度購入(例:iTunes Store)

印刷サービスの場合

  • サブスクリプション型:月額料金で一定枚数まで印刷し放題
  • リカーリング型:印刷枚数に応じて課金

動画配信の場合

  • サブスクリプション型:月額定額で見放題(例:Netflix)
  • リカーリング型:視聴したい作品ごとに課金(例:一部のVODサービス)

このように、サブスクリプションは「定額で使い放題」というモデルが多いのに対し、リカーリングは「使った分だけ支払う」というモデルが主流です。サブスクリプションは予測可能な固定費を好む顧客に適しており、リカーリングは使用量に合わせて費用を調整したい顧客に適しています。

ビジネス戦略における位置づけの違い

サブスクリプションとリカーリングは、ビジネス戦略においても異なる位置づけを持っています。

サブスクリプションの戦略的特徴:

  • 顧客にとって費用が予測可能であるため、心理的ハードルが低い
  • 企業にとっても収益予測が立てやすく、安定した収益基盤となる
  • 顧客の利用頻度に関わらず一定の収益が得られる
  • 常に新しいコンテンツや価値を提供し続ける必要がある

リカーリングの戦略的特徴:

  • 初期導入コストを低く抑えることで、新規顧客獲得のハードルを下げられる
  • 使用量が多い顧客からより多くの収益を得られる
  • 本体と消耗品の互換性をコントロールすることで、顧客のロックイン効果が高い
  • 消耗品などの継続購入品に高い利益率を設定できる

また、両者は収益の拡張性(LTV:Life Time Value)においても違いがあります。サブスクリプションモデルでは、様々なサービスを提供することで顧客との関係性を深め、新しいサービスの追加や上位プランへの移行によってLTVを高めることができます。一方、リカーリングモデルでは、基本的に既存の消耗品や関連サービスの購入頻度や量によってLTVが決まるため、収益の拡張性はサブスクリプションよりも限定的な場合があります。

ストックビジネス・リカーリングビジネスの戦略的メリット

安定した収益基盤の構築

ストックビジネスとリカーリングビジネスの最大のメリットは、安定した収益が見込めることです。有料会員などの顧客を増やすことで、毎月の収益が積み重なり、非常に安定した収益基盤となります。

フロービジネスでは、売上を立てるために常に新規顧客の獲得や単発の販売を繰り返す必要があり、収入が不安定になりがちです。一方、ストックビジネスは顧客と継続的な契約関係を築くことで、将来にわたって安定した収益を得られます。

既存顧客の維持もサポート体制が整えば運営しやすく、会員の大量退会などの顧客離れが急激に発生しない限り、毎月の収益が安定します。このため、今後の収入の予想や見通しが立てやすく、長期的な事業計画を立てやすいというメリットもあります。

特にリカーリングビジネスでは、初期製品(本体)の販売後も継続的に消耗品やサービスの提供による収益が見込めるため、長期的な収益計画を立てやすくなります。また、景気変動の影響も受けにくく、経済状況が悪化した時期でも比較的安定した収益を確保できる傾向があります。

効率的な営業活動とマーケティングの実現

ストックビジネスやリカーリングビジネスでは、既存顧客の維持コストは新規顧客の獲得コストに比べて大幅に低くなる傾向があります。一般的に、既存顧客の維持コストは新規顧客獲得コストの約1/5と言われています。既存会員の管理維持を効率的に改善することで、営業活動にかかるコストを抑えて運営することが可能です。

また、一度獲得した顧客は、リピートのためのアプローチは必要なく、営業のリソースを新規獲得に振ることができます。顧客との継続的な接点を活かして、絞ったターゲットに広告費用を抑えた効率的なマーケティングを行えるのも大きなメリットです。

さらに、既存顧客との関係性を深めることで、クロスセル(関連商品の販売)やアップセル(上位商品への移行)の機会も生まれ、顧客一人当たりの生涯価値(LTV)を高めることができます。例えば、Amazonのように複数のサブスクリプションサービス(Amazon Prime、Kindle Unlimited、Amazon Musicなど)を提供することで、顧客との関係構築を深め、新しいサービスを導入した際にも受け入れられやすくなります。

顧客データの蓄積によるサービス改善

ストックビジネスやリカーリングビジネスでは、顧客との長期的な関係性の中で、購買行動データを蓄積することができます。顧客がどのようなサービスをいつ、どのように利用しているのか、どのような問い合わせが多いのかなど、様々なデータを分析することで、商品やサービスの品質改善に役立てることができます。

利用するサービス、時間帯、問い合わせの内容などは、商品やサービスの品質改善に有益な情報となります。このように蓄積されたデータは、既存サービスの改善だけでなく、新たなサービス開発のためのインサイトとしても活用できます。データに基づいた意思決定により、より顧客ニーズに合ったサービス提供が可能になります。

また、顧客の行動パターンや嗜好を理解することで、パーソナライズされたサービス提供や効果的なマーケティングキャンペーンの実施も可能になります。これにより顧客満足度が向上し、解約率(チャーンレート)の低減にもつながります。

ストックビジネス・リカーリングビジネスの課題と対処法

収益化までの時間と初期投資の課題

ストックビジネスやリカーリングビジネスのデメリットとしては、収益が安定するまでに時間がかかる点が挙げられます。初期段階では会員数や顧客数が少ないため、なかなか売上が安定しません。また、新規会員獲得のためには、初期の段階で広告費などのコストも必要となります。そのため、最初にある程度の資金を準備しておく必要があります。

特にリカーリングビジネスでは、本体製品を安価で提供するモデルの場合、初期投資の回収に時間がかかることがあります。消耗品や追加サービスの継続的な購入によって徐々に利益を上げていく仕組みのため、短期的な収益よりも長期的な視点が必要です。

この課題に対処するためには、以下のような方法が考えられます。

  1. 段階的な事業拡大: 最初から大規模な投資を行うのではなく、小規模からスタートして顧客基盤を徐々に拡大していく。
  2. 複合的な収益モデル: 初期段階では一部フロー型のビジネスも併用し、キャッシュフローを確保しながらストックビジネスを育てる。
  3. 投資資金の確保: ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家など、長期的な視点を持った投資家からの資金調達を検討する。
  4. 顧客獲得コストの最適化: デジタルマーケティングやソーシャルメディアを活用した効率的な顧客獲得方法を模索する。

顧客管理とチャーンレート(解約率)の制御

継続的な収益を得るためには、顧客との関係性を長期間維持する必要があります。そのためには、顧客情報の適切な管理や、顧客満足度の維持・向上が不可欠です。しかし、顧客数が増えるにつれて、個々の顧客のニーズや利用状況を把握することが難しくなります。

また、解約率(チャーンレート)の管理も重要な課題です。一度契約した顧客が解約してしまうと、安定していた収益が減少してしまいます。顧客が解約する理由を分析し、サービスの改善や顧客対応の向上を図る必要があります。

チャーンレートを低減するための対策としては、以下のようなものが考えられます。

  1. 顧客満足度の定期的な調査: アンケートやインタビューを通じて顧客のニーズや不満を把握し、迅速に対応する。
  2. CRMシステムの導入: 顧客情報を一元管理し、顧客との接点を記録・分析するシステムを導入する。
  3. 顧客コミュニケーションの強化: メールマガジンやSNS、イベントなどを通じて顧客との関係性を深める。
  4. サービス品質の継続的な向上: 顧客フィードバックを活かしたサービス改善を定期的に行う。
  5. ロイヤルティプログラムの導入: 長期契約者や紹介者に対する特典を設け、顧客のロイヤルティを高める。

競合との差別化戦略

ストックビジネスやリカーリングビジネスの普及に伴い、市場競争も激化しています。特に参入障壁が低い分野では、類似したサービスが次々と登場し、顧客の獲得競争が激しくなっています。このような環境下では、競合との明確な差別化が不可欠です。

差別化戦略としては、以下のようなアプローチが考えられます。

  1. 独自の価値提供: 競合にはない独自の機能やコンテンツを提供する。
  2. ニッチ市場への特化: 特定の顧客セグメントに特化したサービスを展開する。
  3. サービス品質の向上: カスタマーサポートやユーザー体験の質で差別化を図る。
  4. ブランド構築: 強固なブランドイメージを構築し、感情的なつながりを作る。
  5. エコシステムの構築: 複数のサービスを連携させ、顧客にとっての総合的な価値を高める。

例えば、Amazonは単なるEコマースサイトから、Prime Video、Amazon Music、Kindle Unlimitedなど多様なサービスを提供するエコシステムを構築し、顧客のロックイン効果を高めています。また、Adobeも単一のソフトウェア販売から、Creative Cloudというサブスクリプションモデルに移行し、さらにAdobe Stockという素材のサブスクリプションサービスも提供することで、顧客一人当たりの収益を最大化しています。

日本におけるリカーリング・ストックビジネスの成功事例

伝統から学ぶ:富山の置薬と現代ビジネス

日本における歴史的なリカーリングビジネスの成功事例として、「富山の置薬」が挙げられます。江戸時代から続くこのビジネスモデルは、一般家庭に医薬品の入った箱を預け、定期的に訪問して使用分の代金を請求するという形態です。現代でも廣貫堂などの企業がこのビジネスモデルを継続しており、長期間にわたって安定した収益を上げています。グループ売上は130億円にまで達しており、安定した積み上げ収益の賜物であるといえます。

このビジネスモデルの特徴は、「先用後利(せんようこうり)」という考え方にあります。これは、まず商品を使ってもらい(先用)、後から対価を得る(後利)という方法です。この考え方は、現代のサブスクリプションやリカーリングビジネスにも通じるものがあります。

「富山の置薬」の成功要因には以下のような点が挙げられます。

  1. 顧客の生活に寄り添ったサービス設計: 必要な時にすぐに薬が使えるという顧客ニーズに応えている。
  2. 定期的な訪問による関係構築: 半年に一度の訪問により、顧客との信頼関係を築いている。
  3. 使用量に応じた課金: 実際に使った分だけ支払うという公平な料金体系。
  4. 生活必需品であるという特性: 医薬品という必要性の高い商品を扱っている。

これらの要素は、現代のリカーリングビジネスにも活かせる重要なポイントといえるでしょう。

現代日本企業の成功モデル分析

現代日本におけるストックビジネスやリカーリングビジネスの成功例としては、以下のようなものが挙げられます。

  1. プリンターメーカー: エプソン、キヤノン、ブラザーなどのプリンターメーカーは、プリンター本体よりもインクカートリッジの販売で収益を上げるビジネスモデルを展開しています。特にエプソンのエコタンク搭載プリンターは、インクボトルを使用することで顧客のコスト削減と環境負荷低減を両立させつつ、継続的な収益を確保しています。
  2. ゲーム業界: 任天堂やソニー・インタラクティブエンタテインメントは、ゲーム機本体の販売後、ゲームソフトやダウンロードコンテンツ、オンラインサービスなどで継続的な収益を上げています。任天堂のNintendo Switch OnlineやソニーのPlayStation Plusなどのサブスクリプションサービスも展開し、ストックビジネスとリカーリングビジネスを組み合わせた戦略を採用しています。
  3. 通信・インターネットサービス: NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクなどの通信キャリアは、月額基本料と通信量に応じた従量課金を組み合わせたハイブリッドモデルを提供しています。また、LINEはフリーミアムモデルを採用し、基本サービスは無料で提供しつつ、スタンプ販売やLINE Payなどの付加サービスで収益を上げています。
  4. サブスクリプションサービス: AbemaやU-NEXTなどの動画配信サービス、各種新聞・雑誌の電子版など、日本国内でも多様なサブスクリプションサービスが展開されています。特にU-NEXTは、月額料金の中にポイントを含め、最新作などの課金コンテンツにも使えるハイブリッドモデルを構築しています。
  5. ボックス型サブスク: 定期的に様々な商品が届く「My Little Box」や「Medley」などのサブスクリプションボックスサービスも人気を集めています。これらのサービスは、「驚き」や「発見」という体験価値を提供することで差別化を図っています。

これらの成功事例から学べるポイントとしては、以下のようなものが挙げられます。

  1. 顧客ニーズに合わせた柔軟なモデル設計: 顧客の利用パターンや支払意欲に合わせた料金体系の設計。
  2. 複合的な収益モデルの構築: サブスクリプションとリカーリングを組み合わせたハイブリッドモデルの採用。
  3. 顧客体験の重視: 単なる商品・サービス提供にとどまらない、体験価値の創出。
  4. デジタル技術の活用: オンラインプラットフォームやアプリを活用した顧客接点の強化。
  5. 継続的なイノベーション: 常に新しい価値を提供し続けることによる顧客満足度の維持・向上。

まとめ:自社に最適なビジネスモデルの選択

リカーリングとストックの違いの本質

本記事では、リカーリングとストックの違いを中心に、現代ビジネスにおける継続的な収益モデルについて解説しました。ここで改めて両者の違いをまとめると:

ストックビジネスは、蓄積型の収入構造を持つビジネスモデルであり、顧客と契約を結んで継続的に収入を得る仕組みです。サブスクリプションやリカーリングはこのストックビジネスの具体的な形態と言えます。

リカーリングビジネスは、ストックビジネスの一種で、基本となる商品やサービスを提供した後、消耗品や付属品などの使用量に応じて課金する従量制のモデルです。プリンターとインク、ゲーム機とソフト、剃刀と替刃などが典型例です。

サブスクリプションもストックビジネスの一種ですが、一定期間のサービス利用権に対して定期的に決まった金額を支払う定額制のモデルです。動画配信サービスや音楽配信サービス、ソフトウェア使用権などが該当します。

つまり、リカーリングとサブスクリプションの本質的な違いは「従量制vs定額制」という課金方法にあります。また、ビジネス戦略としての位置づけも異なり、リカーリングは消耗品や関連サービスに高い利益率を設定する一方、サブスクリプションは顧客との関係構築を通じたLTV向上を目指すという違いもあります。

自社ビジネスに適したモデルの選択基準

自社ビジネスに適したモデルを選択する際には、以下のような基準が参考になります。

  1. 商品・サービスの特性
    • 消耗品や継続的なメンテナンスが必要な製品・サービスならリカーリングが適している
    • コンテンツやサービス利用権を提供するならサブスクリプションが適している
  2. 顧客のニーズと支払意欲
    • 予測可能な固定費を好む顧客層ならサブスクリプション
    • 使用量に応じた料金設定を好む顧客層ならリカーリング
  3. 競合状況と市場環境
    • 競合が多い市場では差別化要素を含んだモデル設計が重要
    • 成熟市場では顧客ロックインを高めるリカーリングが有効な場合も
  4. 初期投資と回収計画
    • 初期投資を早期に回収したい場合はフロービジネスとの併用
    • 長期的な安定収益を重視するならストックビジネスに注力
  5. 企業の強みとリソース
    • 顧客対応力や継続的な価値提供力がある企業はストックビジネスが適している
    • 製品開発力が強い企業はリカーリングと相性が良い

重要なのは、これらのビジネスモデルは必ずしも排他的ではなく、組み合わせることも可能だということです。例えば、基本サービスはサブスクリプション形式で提供しつつ、オプションサービスはリカーリング形式で提供するハイブリッドモデルも有効です。自社の強みや顧客ニーズに合わせた最適なモデル設計を検討することが重要です。

未来のビジネスモデル展望

テクノロジーの進化や消費者行動の変化に伴い、ストックビジネスやリカーリングビジネスも進化し続けています。今後の展望としては、以下のようなトレンドが考えられます。

  1. AIと自動化の活用: AIを活用した顧客行動予測や自動化されたパーソナライゼーションにより、より洗練されたサービス提供が可能になる。
  2. サブスクリプションの細分化: 様々なニーズに応える多様なプランや、使用状況に応じて柔軟に切り替えられるプランの普及。
  3. エコシステムの拡大: 複数のサービスを連携させた総合的なエコシステムの構築による顧客体験の向上と顧客ロックインの強化。
  4. サステナビリティの重視: 環境負荷の低減を考慮したリカーリングモデルの普及(例:詰め替え式製品、再利用可能な容器など)。
  5. B2BへのさらなるシフトSaaS(Software as a Service)に代表されるB2Bサブスクリプションモデルのさらなる普及と専門化。

これらのトレンドを踏まえると、今後は単純なサブスクリプションやリカーリングだけでなく、より顧客ニーズに合わせたハイブリッドモデルや、テクノロジーを活用した新しい形のストックビジネスが登場してくると予想されます。

重要なのは、どのビジネスモデルを選択するにしても、常に顧客価値を中心に据え、継続的な価値提供を通じて顧客との長期的な関係構築を目指すことです。ストックビジネスやリカーリングビジネスの本質は、単に継続的な収益を得ることではなく、顧客に継続的な価値を提供し続けることにあります。この原則を忘れずに、自社のビジネスモデルを構築・改善していくことが、長期的な成功への鍵となるでしょう。

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執筆者のプロフィール
関野 良和
大手国内生命保険会社や保険マーケティングに精通し、保険専門のライターとして多メディアで掲載実績がある。監修業務にも携わっており、独立後101LIFEのメディア運営者として抜擢された。 金融系コンテンツの執筆も得意としており、グローバルマクロの視点から幅広いアセットクラスをカバーしているが、特に日本株投資に注力をしており、独自の切り口でレポートを行う。 趣味のグルメ旅行と情報収集を兼ねた企業訪問により全国を移動しながらグルメ情報にも精通している。
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