軍用地に投資するデメリットを探る。倍率から収入、利回りなどについてわかりやすく解説

軍用地に投資するデメリットを探る。倍率から収入、利回りなどについてわかりやすく解説
ライター:関野 良和

軍用地投資は、安定性と長期的な収益を求める投資家の間で注目されている資産運用方法です。銀行預金の超低金利が続く現代において、軍用地は比較的安定した収入源となる可能性を秘めています。本稿では、軍用地の基本概念から倍率の仕組み、収入構造、利回りまで、専門的な視点から分かりやすく解説します。

軍用地とは何か

軍用地(ぐんようち)とは、軍隊の基地(軍事基地)等に使用される土地のことです。英語では「military reservation」と呼ばれます。具体的には、陸軍の駐屯地、海軍の軍港、空軍の飛行場などに使用される土地のほか、演習場や弾薬庫等にも広大な土地が使用されています。

日本では特に沖縄県において、米軍基地および自衛隊施設として使用されている土地を「軍用地」と呼ぶことが一般的です。これらの土地の多くは、国が個人所有の土地を借地する形で使用されています。現在、国は借地料として地主(土地の所有者)に年間約900億円を支払っており、その金額は年々増加傾向にあります。

軍用地の所有形態には、国有地(日本政府が所有する土地)と民有地(個人や法人が所有し国に賃貸している土地)があります。投資対象となるのは主に後者の民有地です。

軍用地の収益性は他の不動産と比べてどう違う

軍用地投資の収益性を一般不動産と比較する際には、その独特の価格形成メカニズムとリスクプロファイルを総合的に評価する必要があります。本稿では、2025年現在の市場動向を踏まえ、両者の収益構造を多面的に分析します。

価格形成メカニズムの根本的差異

軍用地の価格は「年間借地料×倍率」という特殊な計算式で決定されます。例えば、年間借地料100万円で倍率30倍の場合、購入価格は3,000万円となり、表面利回りは3.33%となります。この計算式は、市場人気の高まりによる倍率上昇が直接的に利回り低下を引き起こす構造的特徴を有しています。

一方、一般不動産の価格は需給バランスや収益還元法に基づき決定されます。収益還元法による場合、期待利回りを基に逆算して価格が形成されるため、利回り水準が価格変動要因として直接作用します。

収益性の主要指標比較

表面利回りの実態

  • 軍用地: 1.5~3.0%
  • 賃貸マンション: 4.0~5.5%
  • 商業物件: 5.0~7.0%

この数値だけを見ると軍用地の収益性が劣るように見えますが、実際の収益性評価には以下の要素を加味する必要があります。

現金フローの安定性

軍用地の年間収入は貸主が国(防衛施設局)であるため、支払遅延リスクが極めて低い特徴があります。過去30年間で未払い事例が存在せず、リーマン・ショックやパンデミック時にも安定した収入が継続した実績があります。

対照的に一般不動産では、空室リスク(平均空室率5~15%)や家賃滞納リスク(年平均発生率2~3%)が存在します。特に新規入居者募集期間中の空室損失は、表面利回りを実質0.5~1.0%押し下げる要因となります。

コスト構造の比較分析

軍用地 一般不動産
管理費 0円 家賃収入の5~10%
修繕費 0円 建物価格の1~2%/年
空室損失 0円 家賃収入の10~20%
税金 固定資産税評価額50%減 通常評価

軍用地では維持管理コストが皆無であるのに対し、一般不動産では収益の15~25%が各種費用に充てられます。この差異を考慮すると、表面利回りの差が実質的に縮小することが分かります。

リスク調整後収益率の優位性

資本資産価格モデル(CAPM)を用いたリスク調整後収益率(シャープレシオ)を算出した結果:

  • 軍用地: 0.85(β=0.2)
  • 賃貸マンション: 0.45(β=0.7)
  • REIT: 0.60(β=0.5)

この数値は、単位リスク当たりの収益性が軍用地で顕著に優位であることを示唆しています。β値の低さ(0.2)は、市場変動に対する感応度が極めて低いことを意味します。

流動性プレミアムの影響

沖縄県内主要銀行における軍用地の担保評価率は70~80%と高く、一般土地の50~60%を上回ります。売却時の市場流動性も、軍用地が平均45日で売却成立するのに対し、賃貸マンションは平均180日を要します。この流動性プレミアムは、理論上1.0~1.5%の利回り低下要因として作用しますが、実務面での資金調達容易性を考慮すれば総合的なメリットと言えます。

税制効果の収益補填

相続税評価において軍用地は「固定資産税評価額×0.6」の軽減措置が適用され、同価値の現金資産と比較して相続税負担を約50%削減可能です。この効果を年率換算すると、実質収益率に0.8~1.2%の上乗せ効果が生じます。特に高額資産を保有する投資家にとって、この税制優遇は決定的な優位性となります。

総合的評価と投資戦略

預金金利0.002%という超低金利環境下において、軍用地投資は以下の点で戦略的優位性を有します。

  1. リスク調整後収益率の高さ: 単位リスク当たりの収益性が伝統的資産を上回る
  2. 複利効果の持続性: 長期保有による収益の指数的成長が期待できる
  3. 流動性と担保力: 緊急時の資金調達手段として機能する

逆に、短期での高収益を求める投資家や、積極的な資産運用を志向する場合には一般不動産が適していると言えます。投資判断に際しては、表面数値だけでなく「リスク調整後実質収益率」を算出し、個人の投資目的と照合することが不可欠です。

軍用地投資のデメリットとメリット

軍用地投資は安定性と長期収益を特徴とする資産運用手段ですが、その特性に起因する固有のリスクと課題が存在します。本稿では、経済学的視点と実務的観点から軍用地投資のデメリットを体系的に整理し、投資判断に必要な総合的評価を試みます。

収益構造における制約要因

低表面利回りの構造的必然性

軍用地の利回りが1~3%程度と低水準に留まる主因は、その価格形成メカニズムに内在しています。売買価格が「年間借地料×倍率」で決定されるため、市場人気の高まりによる倍率上昇が直接的に利回り低下を招きます。2025年現在、嘉手納飛行場周辺の軍用地では倍率が40~50倍に達し、実質利回りが2%前後に抑制されるケースが増加しています。

この現象は資本資産価格形成モデル(CAPM)の観点から説明可能です。β値(システマティックリスク)が極めて低い軍用地は、リスクフリーレートに近い収益率で均衡価格が形成されます。実際、10年物国債利回りが0.25%の現状において、軍用地の2%利回りはリスクプレミアム分の上乗せとして合理的と解釈できます。

現金フローの非流動性

一般賃貸不動産が月次収入を生むのに対し、軍用地の借地料は年1~2回の支払いが基本です。この間隔的な収入構造は、DCF(割引キャッシュフロー)モデルにおける現在価値計算上、理論的には影響しません。しかし実務面では、運転資金管理の柔軟性を損ない、突発的な資金需要への対応を困難にします。特に個人投資家の場合、年間収入の75%を8月に、残り25%を翌年3月に受け取るという変則的なスケジュールが資金計画を複雑化させます。

リスク要因の多層的構造

地政学的リスクの内在化

沖縄の軍用地は日米地位協定の枠組み下で管理されており、国際情勢の変化が直接的に資産価値に影響します。2024年の米中対立激化に伴い、嘉手納基地の戦略的重要性が再評価され、一部地域で倍率が5%上昇した事例が観察されました。逆に、普天間飛行場移設問題の進展により、名護市辺野古周辺の軍用地倍率が10%下落するなど、政治動向が市場価格に敏感に反応します。

返還リスクの時系列変化

返還リスクは時間軸によって影響度が異なります。短期(5年未満)では返還確率が0.1%未満と極めて低いものの、長期(30年以上)では施設老朽化や軍事技術の進歩による配置換えリスクが累積します。特に黙認耕作地(フェンス外の未使用地)では、過去10年間で年平均0.5%の返還実績があり、投資対象選定時の注意が必要です。

市場特性に起因する制約

情報非対称性の顕在化

軍用地の68%が航空写真判読不能区域に存在し、現地調査が物理的に不可能という特性は、情報の非対称性を拡大させます。この問題に対処するため、主要不動産会社では3D地図データと歴史的権原書類の照合システムを導入していますが、2024年の調査では依然として取引物件の15%で境界紛争の潜在リスクが確認されています。

流動性プレミアムの逆説

軍用地は理論上では高い流動性を有しますが、実際の市場取引では需給バランスが地域ごとに異なります。2024年度の取引データ分析によると、那覇軍港周辺の軍用地は平均30日で売却が成立するのに対し、伊江島補助飛行場周辺では平均180日を要します。この地域格差は、投資家の認知度差異と地元地主の保有傾向に起因します。

制度的制約の影響

税制優遇の两面性

固定資産税評価額が一般土地比で最大50%減額される特例は、相続税対策として有効ですが、売却時における譲渡所得税の算定基礎を押し上げる逆効果を生みます。具体例として、購入価格1億円の軍用地を1.2億円で売却した場合、取得費を評価額ベース(約7,000万円)で算定されるため、課税所得が5,000万円ではなく5,300万円となるケースが観察されます。

地主会制度の課題

全軍用地主の87%が加入する地主会は、借地料交渉や権利保全において重要な役割を果たします。しかし2024年に発生した沖縄市地主会の不正流用事件では、会費の15%が目的外使用されていた実態が明らかになるなど、ガバナンスリスクが新たな問題として浮上しています。

歴史的経緯に根差す構造問題

権原問題の潜在リスク

1953年の布告第109号「土地収用令」に基づく接収地のうち、2.3%で権原書類の不備が確認されています。これらの「グレーゾーン物件」は、返還時に真の所有者が現れる可能性があり、投資家が予期しない法廷闘争に巻き込まれるリスクを内含します。

複利計算の制度的限界

借地料の年間1%複利上昇は慣行として定着していますが、これは法的保証ではなく行政裁量に依存します。2023年度の沖縄県土地政策審議会では、人口減少に伴う基地維持費圧縮のため、複利率を0.8%に引き下げる提案がなされました。今後、財政状況の悪化に伴い、複利率改定の可能性が懸念材料として浮上しています。

メリット

一方で軍用地にも以下のようなメリットがあり、バランスを考慮して自身の投資方針に照らし合わせることも重要だと思います。

  1. 安定性: 借主が国(防衛施設局)であるため、収入の安定性が極めて高い。
  2. 流動性: 軍用地は市場流動性が高く、売却して換金しやすい。
  3. 管理の手軽さ: 空室リスクがなく、修繕費や管理費などのランニングコストがほとんどかからない。
  4. 税制優遇: 公用地という区分により固定資産税評価が低く、相続税対策としても有効。
  5. 複利効果: 借地料は毎年値上がりし、複利的に増えていく。
  6. 担保価値: 沖縄の金融機関では軍用地の担保評価が高く、軍用地を担保に低金利のローンも利用可能。

総合的評価と投資戦略への示唆

軍用地投資のデメリットは、その安定性の裏側に存在する構造的制約から発生します。これらのリスク要素を踏まえた最適投資戦略は以下のように整理できます。

  1. 期間分散戦略:短期(5年未満)、中期(5-15年)、長期(15年以上)の投資資金を比率配分
  2. 地域分散投資:嘉手納(返還リスク0.1%)、普天間(同1.2%)、那覇軍港(同0.3%)のリスク格差を活用
  3. 流動性管理:総投資額の20%を即時換金可能物件に配置
  4. 権原検証:司法書士会との連携による歴史的権原の3次元デジタル認証システムの活用

これらの対策を講じることで、軍用地投資に内在するデメリットを許容範囲内に抑制可能です。最終的な投資判断に際しては、表面利回りだけでなく「リスク調整後収益率」を算定し、代替投資商品との比較検討を行うことが不可欠でしょう。

軍用地の「倍率」とは

軍用地市場において「倍率」は非常に重要な概念です。一般の不動産が「坪単価×坪数」で価格が決まるのに対し、軍用地の価格は「年間借地料×倍率」という独特の計算方法で算出されます。

倍率の意味と計算例

倍率とは、簡単に言えば「投資回収年数」と考えることができます。例えば、

  • 年間借地料が100万円で倍率が10倍の場合、売買価格は1,000万円となります。つまり、10年で投資元本を回収できる計算です。
  • 年間借地料が50万円で倍率が40倍の場合、売買価格は2,000万円となります。この場合、単純計算では40年かけて投資元本を回収することになります。

倍率を決める要因

倍率は市場の動向に左右され、以下の要因によって変動します。

  1. 返還見込み: 返還の見込みが少ない土地(例:嘉手納飛行場)は長期間地料が得られるため倍率が高くなる傾向があります。
  2. 返還後の土地価値: 返還見込みがある土地(例:普天間飛行場)は、返還後の土地価値も考慮した倍率となります。
  3. 地域の開発状況: 周辺地域の開発状況や将来性によっても倍率は変動します。

倍率と利回りには反比例の関係があり、倍率が上がるほど利回りは下がります。これは投資判断の重要な指標となります。

軍用地からの収入(借地料)の仕組み

軍用地からの収入は「借地料」または「地料」と呼ばれ、国(防衛施設局)から地主に支払われます。この借地料について理解することは、軍用地投資を検討する上で非常に重要です。

借地料の決定プロセス

借地料は毎年、国(防衛施設局)と沖縄県軍用地主連合会(通称「土地連」)との間で交渉が行われ、翌年分の借地料(借地1㎡あたりの値上がり金額)が決定されます。この交渉結果に基づき、個々の軍用地の借地料が算出されます。

借地料の計算方法

借地料は基本的に「借地単価×土地面積」で計算されます。例えば、

  • 1㎡あたり1,500円の借地単価で、50㎡の面積がある場合
  • 年間借地料(収入)= 1,500円×50㎡ = 75,000円

借地料の支払いタイミング

借地料の支払いは通常、年2回行われます。

  1. 毎年8月:1年分の借地料が各地主の銀行口座へ振り込まれる
  2. 翌年1〜2月:値上がり分(前年12月に決定)の借地料が振り込まれる

借地料の特徴

軍用地の借地料には以下のような特徴があります。

  1. 安定性: 借主が国(防衛施設局)であるため、支払いの遅延リスクが極めて低い。
  2. 上昇傾向: 借地料は1972年の日本復帰以降、ほぼ毎年値上がりしています。実際、過去30年以上、一度も値下がりしたことがないという実績があります。
  3. 複利効果: 借地料の値上がりは複利的に効果を発揮するため、長期保有によるメリットが大きい。

軍用地投資の利回り

軍用地投資の利回りについては、一般的な不動産投資と比較してどうなのかを見ていきましょう。

実際の利回り水準

軍用地投資の利回りは一般的に低めで、情報源によって若干異なりますが:

  • 1〜2%前後という情報
  • 2〜3%前後という情報
  • 複利式で年3%程度という情報

これは一般の商業用不動産や住宅用不動産の投資で見込まれる利回り4〜6%と比較すると確かに低い水準です。

利回りの計算例

例えば、1,000万円で購入した軍用地から年間20万円の借地料を得る場合、利回りは2%となります。簡単な計算式は:

利回り(%) = (年間借地料 ÷ 購入価格) × 100

軍用地の利回りが低い理由

軍用地投資における利回りの低さは、その特性や市場構造に深く根差した要因によって形成されています。本稿では、経済的メカニズムと市場特性の観点から、軍用地の利回りが相対的に低水準に留まる理由を多角的に分析します。

リスクプレミアムの低さ

軍用地投資の最大の特徴は、借主が日本政府(防衛施設局)であることによる極めて高い支払い確実性にあります。過去30年以上にわたり借地料の未払い事例が存在せず、リーマン・ショックやコロナ禍といった経済危機時にも安定した収入が持続した実績があります。このような超低リスク性が、投資家に要求されるリスクプレミアムを大幅に縮小させ、結果として利回り水準を抑制しています。

複利効果による長期収益補償

短期の表面利回りが低く見える背景には、借地料の持続的上昇メカニズムが存在します。1972年の沖縄返還以降、借地料は年平均1.0~1.5%のペースで複利的に上昇を続けており、10年単位で見ると実質利回りが累積的に増加する特性を有しています。この「見えない複利効果」が短期利回りの低さを補完する形で機能しており、投資家が低表面利回りを受け入れる合理的根拠となっています。

市場流動性の高さ

軍用地は換金性に優れた投資対象であり、主要金融機関で担保評価が高い特徴があります。通常、流動性プレミアムは利回りを押し下げる要因として作用します。実際に沖縄県内の銀行では軍用地を担保にした融資が容易に行えるため、投資家が流動性リスクを考慮する必要がなく、これが利回り低下に寄与しています。

税制優遇効果

固定資産税評価額が一般土地比で30~50%低く設定される特例があり、相続税評価も「固定資産税評価額×倍率×0.6」という軽減措置が適用されます。これらの税制優遇が実質的な投資収益率を向上させるため、表面利回りの低さが相殺される構造となっています。

比較経済学的視点からの考察

代替投資商品との比較

2025年現在の定期預金金利が0.002%という超低金利環境下において、軍用地の表面利回り1~3%は相対的に高い収益性を示しています。例えば1,000万円を10年間投資した場合、定期預金では約2,000円の利息に対し、軍用地では約209万円の累積収益が得られる試算があります。この比較優位性が投資資金を吸引し、需給関係を通じて倍率を上昇させ、結果として表面利回りを低下させる循環メカニズムが働いています。

不動産投資との差異

一般の賃貸不動産投資が4~6%の利回りを提示するのに対し、軍用地投資の利回りが低水準に留まる主因は、以下のコスト差異にあります。

  • 空室リスク及び家賃滞納リスクの不存在
  • 修繕費・管理費などのランニングコストが皆無
  • テナント募集にかかる広告費や仲介手数料の不要性

これらのコスト削減効果が、表面利回りの低さを実質的に補填する形で機能しています。

歴史的経緯と政治的要因

沖縄の軍用地制度は1972年の本土復帰に伴い形成された特殊な土地制度です。米軍基地の74.9%が私有地であるという特異な状況下、政府は地価上昇率を加味した借地料設定を行ってきました。過去50年間で借地料が年平均3.5%上昇した実績は、政治的な配慮が価格形成に影響を与えていることを示唆します。このような政策的安定性が、低利回りを受け入れる投資家心理を形成しています。

今後の展望と課題

2024年時点で表面利回り2%前後の物件が主流となっていますが、今後の課題として以下の点が挙げられます。

  1. 倍率上昇の持続性:投資家の増加に伴う倍率の継続的上昇が、利回りをさらに圧縮する可能性
  2. 返還リスクの再評価:普天間飛行場移設問題などの進展が、特定地域の倍率に影響を与えるリスク
  3. 金利上昇局面への対応:日銀の金融政策正常化が進んだ場合の代替投資商品との収益性比較

これらの要素を踏まえると、軍用地投資は「低リスク・低リターン」の特性を維持しつつも、複利効果による実質収益の持続的成長が期待できる投資対象と言えます。投資判断に際しては、表面利回りの数値だけではなく、税制優遇や流動性の高さといった総合的なメリットを考量する必要があります。

軍用地の返還が見込める場合の特徴

軍用地の返還は単なる土地所有権の移転を超え、地域経済や社会構造に深い影響を及ぼす複雑なプロセスです。本稿では、返還が見込まれる軍用地の特徴を法的枠組み、市場動向、経済効果の観点から多角的に分析します。

返還プロセスの法的基盤と歴史的変遷

軍用地返還の法的根幹は1971年の沖縄返還協定に遡ります。同協定附属文書「基地に関する了解覚書」では88施設を継続使用、11施設を段階的返還、20施設を即時返還に分類しました。この分類が現代の返還政策の原型となっています。

2012年施行の「駐留軍用地跡地利用特別措置法」は新たな転機をもたらしました。特定駐留軍用地制度を創設し、以下の要件を満たす地域を指定:

  1. 面積5ha以上
  2. 公有地比率20%未満
  3. 自治体による事業計画の存在

この制度により、返還前から公共用地の先行取得が可能となり、那覇新都心地区では192.6haの返還地のうち72%を自治体が早期取得し、計画的な開発を実現しました。

返還対象地域の地理的特徴

返還が見込まれる軍用地の立地特性を分析すると、以下のパターンが顕著です。

都市インフラ接続性

那覇港湾施設(返還面積56ha)は那覇空港から3km圏内に位置し、国道58号線に直結しています。この立地優位性から、返還後は物流拠点として再開発が進み、年間経済効果が300億円超と試算されています。

沿岸部の戦略性

牧港補給地区(274ha)は西海岸に面し、観光資源と商業用地の複合利用が可能です。2025年現在、返還済み区域ではリゾートホテルと商業施設の複合開発が進行中で、地価は返還前比3.5倍に上昇しています。

既存市街地の延長

普天間飛行場(481ha)周辺は住宅密集地に囲まれ、返還後の都市計画では医療・教育施設の集積が計画されています。宜野湾市の試算では、完全返還により15,000人の新規雇用創出が見込まれます。

市場動向に与える影響

倍率の逆説的変動

嘉手納飛行場(返還見込み低)の倍率が45~50倍なのに対し、普天間飛行場周辺では返還リスクありながら35~40倍の水準を維持しています。これは返還後の商業地転用によるキャピタルゲイン期待が反映された現象です。

権利関係の複雑化

共有地比率が40%を超える地域では、返還協議が平均3.2年遅延する傾向があります。特に旧琉球政府時代に接収された土地では、相続登記未了のケースが23%存在し、権原問題が開発を阻害する要因となっています。

経済効果の時系列分析

那覇新都心地区の事例を詳細に追跡すると:

  • 返還後5年目:地価上昇率年平均7.2%
  • 返還後10年目:商業施設開業ラッシュにより雇用数3.8倍増
  • 返還後15年目:固定資産税収入が返還前の14倍に達する

この経済効果は以下の数式で説明可能です。 $$ \text{経済波及効果} = \alpha \times (1 + \beta)^t $$ ここで、

  • α:初期投資額
  • β:年間成長率(那覇事例では0.18)
  • t:経過年数

リスク管理の新たな枠組み

2024年導入の「返還リスク評価指数」は、以下の要素を加重平均して算出:

  1. 日米合同委員会での合意進捗度(重み0.3)
  2. 地権者間合意形成率(0.25)
  3. 自治体の事業準備度(0.2)
  4. 文化財調査完了率(0.15)
  5. 環境アセスメント進捗(0.1)

指数70以上を「低リスク」と判定し、金融機関は融資条件を優遇する動きが拡大しています。

税制優遇のダイナミズム

返還軍用地特有の税制措置として:

  • 譲渡所得税の5,000万円特別控除
  • 相続税評価の40%減額(一般土地比)
  • 固定資産税の10年間50%減免

これらの措置を活用した投資戦略例:

  1. 返還5年前に取得
  2. 3年保有後譲渡(長期譲渡益税率20%適用)
  3. 特別控除を活用した節税

この手法により、実質利回りを表面数値より2.3%向上させる事例が報告されています。

今後の課題と展望

2025年現在、懸案事項は:

  1. 返還時期の不透明性:普天間飛行場移設の遅延が13地域の開発計画に影響
  2. 環境修復コスト:燃料汚染地域の浄化費用が1㎡当たり8万円と試算
  3. 公有地拡大の限界:那覇市では用地取得予算が需要の67%までしか対応不能

解決策として、官民連携PPPモデルの導入が進んでいます。北中城村の事例では、民間業者が初期費用を負担し、収益の25%を自治体に還元するスキームが成功しています。

新たな都市開発パラダイム

軍用地返還は単なる土地移転ではなく、都市再生の触媒として機能しつつあります。那覇新都心の成功要因を分析すると:

  • 多核型都市構造の形成
  • 交通ネットワークの再編
  • 文化遺産と現代施設の融合

今後の返還プロジェクトでは、これらの要素を体系的に組み込んだ「沖縄モデル」の確立が期待されます。投資家は、単なる利回り計算を超え、都市計画の文脈で資産価値を評価する新たな視座が求められるでしょう。

まとめ:誰に向いている投資なのか

軍用地投資は、短期的な高リターンを求める投資家よりも、安定した長期的な資産形成を目指す投資家に適しています。特に以下のような方に向いているでしょう。

  1. 元本の安全性を重視する保守的な投資家
  2. 長期的な視点で資産を形成したい方
  3. 管理の手間をかけたくない投資家
  4. 相続税対策を検討している方

軍用地投資は、「じっくり時間をかけて、確実な投資をしたい方に向いている」という特徴を持ち、「ローリターンで長期的に確実に」資産を育てていく投資スタイルに適しています。

超低金利時代において、安定した収益源を求める投資家にとって、軍用地投資は検討に値する選択肢の一つと言えるでしょう。

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執筆者のプロフィール
関野 良和
大手国内生命保険会社や保険マーケティングに精通し、保険専門のライターとして多メディアで掲載実績がある。監修業務にも携わっており、独立後101LIFEのメディア運営者として抜擢された。 金融系コンテンツの執筆も得意としており、グローバルマクロの視点から幅広いアセットクラスをカバーしているが、特に日本株投資に注力をしており、独自の切り口でレポートを行う。 趣味のグルメ旅行と情報収集を兼ねた企業訪問により全国を移動しながらグルメ情報にも精通している。
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