貸株は”やめたほうがいい”といわれているのはなぜ?

貸株は”やめたほうがいい”といわれているのはなぜ?
ライター:関野 良和

”貸株はヤバイのでやめたほうがいい”と口コミや評判で言われている原因と真相についてデメリットを掘り下げて解説します

貸株サービスについてネットの口コミや評判から真相を掘り下げてみました。「貸株はやめたほうがいい」「貸株はやばい」といった否定的な意見から、「ノーリスクで収入が得られる」といった肯定的な評価まで、さまざまな声が聞かれます。本記事では、貸株サービスの仕組みを理解し、そのメリットとデメリットを検証することで、投資家の皆様が適切な判断ができるよう情報を整理してみたいと思います。

貸株サービスの基本的な仕組み

貸株サービスとは、個人投資家が保有する株式を証券会社に貸し出し、その対価として貸株金利を受け取ることができるサービスです。簡単に言えば、「株のレンタル料」をもらえるということになります。

証券会社は、借り受けた株式を機関投資家などに貸し出すことで収益を得て、その一部を貸株金利として個人投資家に還元しています。例えば、貸株金利が年率1.0%の銘柄を200万円分貸し出した場合、1年間で2万円の金利が得られる計算になります。

2024年10月時点では、楽天証券の貸株サービスで対象となっている銘柄は4,378銘柄あり、そのうち貸出金利が年率1%を超えている銘柄が619銘柄あるとのことです。貸株金利は証券会社によって毎週見直されており、一般的に0.1~0.2%程度ですが、需要の高い銘柄では年利10%を超えるケースもあると言われています。

貸株に関する誤解とその真相

「とにかく貸株はやりたくない」という方の中には、誤解に基づいて判断している方もいるようです。検索結果から、よく見られる誤解をいくつか紹介します。

誤解1:貸株をしていると、売りたい時に売れなくなる

これは完全な誤解だと言えます。貸株サービスでは、貸株をしていても売りたい時にはいつでも売ることができます。通常通り売却注文を出せば、自動的に貸株が解除され売却できるため、売り時を逃すことはないようです。

誤解2:信用取引口座を開設しないと貸株ができない

これも誤解です。例えば楽天証券では、信用取引口座がなくても貸株サービスは利用可能となっています。ただし、証券会社によっては信用取引口座を開いていると貸株サービスが利用できない場合もあるので注意が必要です。

誤解3:貸株をしていると配当金や株主優待を一切得られない

この点は半分正しく、半分誤解があると言えます。確かに、貸株をしたまま権利確定日を迎えると配当金(配当所得)や株主優待は得られません。しかし、配当金については「配当金相当額」が雑所得または事業所得として得られます。

また、「株主優待・予想有配優先」などのサービスを選択すれば、権利確定日だけ自動的に貸株が返却されるので、株主優待や配当金を通常通り受け取ることもできるようです。

貸株のメリット

貸株サービスの主なメリットは以下の通りです。

1. 貸株金利による追加収入

貸株の最大のメリットは、保有している株式から貸株金利という追加収入が得られることです。特に長期保有している銘柄や伸び盛りの業界の株式を「遊ばせておく」よりも、貸し出すことで収入を得られるというのは魅力的です。

金利は銘柄によって異なりますが、年率0.1%から10%超までと幅広く設定されています。特に値動きの大きい新興市場銘柄ほど貸株金利が高くなる傾向があると言われています。

2. 売却の自由度が維持される

貸株中であっても、売却したいタイミングで自由に売ることができます。売却注文を出すと自動的に貸株が解除されるため、「貸株をしていたために売りチャンスを逃した」ということはないようです。

3. 長期保有銘柄の有効活用

10年以上継続保有している銘柄や、家族や親族が就職した企業の株式を記念に買って長期保有する場合など、すぐに売却する予定のない株式を有効活用できます。ただ持っているだけでは得られない収入を貸株サービスによって得ることができるというメリットがあります。

貸株のデメリットと欠点

一方で、貸株サービスにはいくつかのデメリットや欠点も存在します。

1. 配当金の扱いが変わる

貸株中に権利確定日を迎えると、通常の配当金ではなく「貸株配当金相当額」として支払われます。これは雑所得または事業所得として扱われるため、以下のようなデメリットがあります。

  • 通常の配当金(配当所得)は申告分離課税が選択できますが、雑所得は総合課税となります
  • 株の譲渡損との損益通算ができなくなります
  • 所得が多い方は税率が高くなる可能性があります
  • 確定申告が必要になる場合があります

2. 株主優待が受けられない可能性

貸株中に権利確定日を迎えると株主優待も受けられなくなります。これは株主の名義が貸株中は借り手に移るためです。特に長期保有による優遇特典がある銘柄では注意が必要です。

3. 株主としての権利の一時的喪失

貸株中は株主としての権利を失うため、全ての株式を貸し出している場合、株主総会への参加権利もなくなります。

4. 証券会社の信用リスク

貸株サービスを利用すると、その証券会社の信用リスクを負うことになります。万が一、貸株サービスを利用中に証券会社が倒産した場合、投資者保護基金による保護対象とはならず、一般債権者となります。ただし、大手証券会社の破綻リスクは相対的に低いとも言われています。

「やめたほうがいい」と言われる理由

検索結果の中には、「貸株はやめたほうがいい」という意見も見られます。その主な理由としては以下のことが挙げられます。

1. 空売りに利用される懸念

検索結果8では、「貸株をすると貸し出した株で機関投資家がショートポジション(空売り)を作るからやめた方がいい」という意見が見られます。確かに貸株金利の高い銘柄は、空売りしたい投資家が多い銘柄である可能性が高いと言われています。

例えば、ある分析によると、貸株金利が高い銘柄は値動きも大きく、株価が下落傾向にあることが多いとのことです。これは貸株が空売りに利用され、売り圧力がかかっているサインである可能性もあるようです。

2. 税金面でのデメリット

前述の通り、貸株中の配当金は「貸株配当金相当額」として雑所得扱いになります。そのため、総合課税となり、税金面で不利になる可能性があります。

3. 倒産リスク

貸株サービスを利用している証券会社が倒産した場合、投資者保護基金による保護対象外となるリスクがあります。

デメリットを回避する方法

貸株のデメリットは、知識と適切な対策によって一部回避することができます。

1. 「株主優待・予想有配優先」の活用

多くの証券会社では「株主優待・予想有配優先」などのサービスを提供しています。これを利用すれば、株主優待や配当金の権利確定日には自動的に貸株が返却されるため、株主優待や配当金(配当所得)を通常通り受け取ることができます。

2. 長期保有特典のある株式の一部保有

長期保有による特典がある銘柄については、保有株式の一部を「長期保有」の条件のために手元に残し、残りの株式を貸し出すという方法も有効です。これにより、長期保有の条件をキープしながら、残りの株式で貸株金利を得ることができます。

3. 信頼できる証券会社の選択

貸株サービスを利用する際は、財務状況が安定した信頼できる証券会社を選ぶことが重要です。現在、貸株サービスを提供しているのは主に大手ネット証券であり、破綻リスクは相対的に低いと考えられています。

貸株サービスはどのような投資家に向いているか

貸株サービスは、すべての投資家に向いているわけではありません。以下のような方には特に適していると言えるでしょう。

1. 長期保有戦略の投資家

長期的な成長を期待して株式を保有している投資家にとっては、その間、貸株金利という追加収入を得られるメリットがあります。

2. 配当・優待よりも金利を重視する投資家

配当や株主優待にあまり関心がない、あるいは「株主優待・予想有配優先」サービスを利用できる投資家は、貸株サービスのメリットを最大限に活かせるでしょう。

3. 信用取引との組み合わせを考える投資家

一部の証券会社では、信用取引の担保となる代用有価証券を貸株として活用することができます。このような取引戦略を考えている投資家には、貸株サービスが役立つ可能性があります。

まとめ:貸株サービスは本当に「やばい」のか?

貸株サービスについて様々な角度から検討してきましたが、「やばい」「やめたほうがいい」という単純な結論には至りません。これは投資家の目的や状況によって判断が分かれるものです。

貸株のメリットとしては、追加収入が得られること、売却の自由度が維持されること、長期保有銘柄を有効活用できることなどが挙げられます。

一方で、配当金の扱いが変わること、株主優待が受けられない可能性があること、証券会社の信用リスクを負うことなどはデメリットと言えるでしょう。

また、貸株金利の高い銘柄は空売りの対象になりやすく、株価下落のリスクがあるという指摘もあります。しかし、この点については「貸株金利の高さで銘柄を選ぶと株価の下落で大損するリスクが高くなる」とも言われており、貸株サービスは「せっかく株を持っているから貸株料も得る」という考え方で利用すべきという意見もあるようです。

結論としては、貸株サービスは正しく理解し適切に活用すれば、投資戦略の一つのツールとして有効に機能する可能性があると言えるでしょう。ただし、そのリスクとデメリットも十分に理解した上で、自身の投資目的や状況に合わせて判断することが重要です。

投資判断は最終的には投資家自身が行うものです。本記事が貸株サービスについての理解を深め、より良い投資判断の一助となれば幸いです。

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執筆者のプロフィール
関野 良和
大手国内生命保険会社や保険マーケティングに精通し、保険専門のライターとして多メディアで掲載実績がある。監修業務にも携わっており、独立後101LIFEのメディア運営者として抜擢された。 金融系コンテンツの執筆も得意としており、グローバルマクロの視点から幅広いアセットクラスをカバーしているが、特に日本株投資に注力をしており、独自の切り口でレポートを行う。 趣味のグルメ旅行と情報収集を兼ねた企業訪問により全国を移動しながらグルメ情報にも精通している。
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