「IR Hub」とはどんなサービス?メリットやデメリットなどをザックリ解説

「IR Hub」とはどんなサービス?メリットやデメリットなどをザックリ解説
ライター:関野 良和

生成AI技術を活用して適時開示文書を作成するIR業務のDXツール

Gunosy「IR Hub」とは?

IR Hubは生成AI技術を活用して適時開示文書の作成から英文翻訳までを自動化・効率化し、企業のIR業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)を強力に推進します。社内のIR業務デジタル化で培った技術とノウハウを外部向けに製品化したIR Hubは、すでに複数の上場企業に導入され、IR業務の品質向上と工数削減を実現しています。

2025年4月から東京証券取引所(東証)プライム市場上場企業に義務付けられる「決算情報・適時開示情報の英文開示」。この新たな規制は、グローバル市場での企業の透明性と信頼性を高める一方で、IR担当者にとっては業務負担の大幅な増加を意味します。特に迅速かつ正確な英文翻訳の必要性は、多くの企業にとって大きな課題となっています。 この課題に対応するため、株式会社Gunosyは2025年3月19日に生成AI技術を駆使した適時開示支援プラットフォーム「IR Hub」を正式にリリースしました。

この記事でわかること

  • IR Hubの開発背景と目的:なぜGunosyはIR業務向けプラットフォームを開発したのか、その戦略的意義を解説します。
  • IR Hubの核となる3つの革新機能:生成AIを活用した具体的な機能とその利点について詳しく説明します。
  • IR Hub導入によるメリットとデメリット:このサービスを導入するメリットとデメリットについて説明します。
  • IR Hub導入による効果と先行事例:実際の導入企業での成果と、Gunosy自身の導入事例から見る効果を紹介します。
  • セキュリティ対策と今後の展望:インサイダー情報を扱うIR業務に不可欠なセキュリティ面の取り組みと今後の発展性について解説します。

「IR Hub」とはどんなサービス?メリットやデメリットなどをザックリ解説

IR Hubの開発背景と目的

株式会社Gunosyが開発した「IR Hub」は、同社の中期経営計画における生成AI活用事業開発の第一弾として誕生しました。Gunosyは「情報を世界中の人に最適に届ける」という企業理念のもと、情報キュレーションアプリ「グノシー」をはじめとする各種メディアサービスを展開してきた企業です。そのメディア事業で培った情報処理技術と、自社のIR業務デジタル化の取り組みから得られたノウハウを融合させ、外部向けサービスとして結実させたのがIR Hubです。

開発の直接的な契機となったのは、東証が2025年4月からプライム市場上場企業に義務付ける「決算情報・適時開示情報の英文開示」です。この新たな規制は、海外投資家に対する情報提供の充実を図るものですが、多くの企業にとっては英文開示への対応が大きな負担となる可能性があります。IR Hubは、この課題を生成AI技術によって解決し、企業のIR業務効率化と情報開示の質の向上を同時に実現することを目指しています。

【専門用語解説】 適時開示:上場企業が投資家の投資判断に重要な影響を与える会社情報を、適時・適切に公表する制度。決算情報や重要な経営判断、組織変更などが対象となり、企業は証券取引所の規則に従って速やかに開示する義務がある。投資家保護と証券市場の公正性・透明性確保のための基本的な仕組み。

IR Hubの3つの革新機能

IR Hubが提供する主な機能は次の3つです。それぞれ生成AI技術を活用することで、従来のIR業務の効率と質を大きく向上させることを可能にしています。

1. 生成AIを活用した開示文書作成

IR Hubは業界初の生成AI技術を活用したIRプラットフォームとして、適時開示文書の作成作業を自動化・効率化します。開示文書のテンプレートや過去の類似事例を参考にしながら、AIが文書の下書きを作成することで、IR担当者の作業負担を大幅に軽減します。また、文書の一貫性や正確性も向上させ、高品質な開示文書の作成をサポートします。

2. 適時開示の英文翻訳自動化

2025年4月からの英文開示義務化に先駆けた機能として特に注目されるのが、日本語の適時開示文書をワンクリックで高精度に英文翻訳する機能です。一般的な翻訳サービスとは異なり、IR専門用語や企業独自の表現に対応した特化型の翻訳機能を備えており、国際的な投資家対応を劇的に簡素化します。翻訳の品質確認や調整も容易に行えるため、英文情報開示の際の精度と速度を両立させることができます。

3. 適時開示事例検索機能

他社が開示した適時開示文書を簡単に検索・閲覧できる機能も搭載されています。この機能により、文書作成時の参考事例の探索や開示基準の確認が容易になります。特に業種別検索にも対応しているため、同業種企業の開示事例を効率的に検索することも可能です。これにより、業界標準に沿った適切な開示内容の検討や、独自性と一般性のバランスの取れた文書作成をサポートします。

【専門用語解説】 生成AI:人工知能(AI)の一種で、テキストや画像、音声などの新しいコンテンツを生成する能力を持つシステム。大量のデータから学習したパターンに基づいて、人間が作成したものに近い質のコンテンツを自動生成できる。代表的なものにGPT(Generative Pre-trained Transformer)などがあり、近年急速に発展し、様々な業務の自動化や創造的な作業支援に活用されている。

IR Hubのメリットとデメリット

株式会社Gunosyが開発した適時開示支援プラットフォーム「IR Hub」のメリットとデメリットを以下にまとめます。

メリット

  1. 生成AI技術による効率化
  • 適時開示文書の作成作業を自動化・効率化し、IR担当者の業務負担を軽減します。
  • 高度な生成AIを活用した英訳機能により、日本語の適時開示文書を高精度に英文翻訳します。
  1. 英文開示対応
  • 2025年4月から義務化される東証プライム市場における英文開示に対応しています。
  • 英文開示の導入による工数負担を最小限に抑え、スムーズな開示業務を実現します。
  1. 情報検索・管理機能
  • 他社の適時開示文書を簡単に検索・閲覧できる機能を搭載し、文書作成時の参考事例探索や開示基準の確認が容易になります。
  • 適時開示案件の管理機能により、情報開示プロセスの透明性向上と内部統制強化を実現します。
  1. セキュリティ対策
  • インサイダー情報を扱うIR業務の特性を踏まえ、業界標準のセキュリティ対策に準拠した厳格なデータ管理体制を整えています。
  1. IR業務の質的向上
  • IR担当者が投資家との戦略的なコミュニケーションに専念できる環境づくりを支援します。

デメリット

  1. 導入コスト
  • 新しいシステムの導入には一定のコストがかかる可能性があります。
  1. 学習曲線
  • 新しいプラットフォームの使用方法を習得するために、一定の時間と労力が必要になる可能性があります。
  1. AIへの依存
  • 生成AI技術に過度に依存することで、人間の判断力や専門知識が低下するリスクがあります。
  1. データセキュリティリスク
  • クラウドベースのプラットフォームであるため、データ漏洩のリスクが完全にゼロではありません。
  1. カスタマイズの制限
  • 標準化されたプラットフォームであるため、各企業の独自のニーズに完全に対応できない可能性があります。

IR Hubは、生成AI技術を活用してIR業務の効率化と質の向上を図る革新的なプラットフォームですが、導入にあたっては上記のメリットとデメリットを十分に検討する必要があります。

IR Hub導入による効果と事例

IR Hubを導入することで企業はどのようなメリットを得られるのでしょうか。主な効果としては以下の点が挙げられます。

まず、AI技術による迅速かつ高精度な英文翻訳により、海外投資家への情報提供力が強化されます。これは企業のグローバルな評価向上につながり、結果として企業価値の向上に寄与するものと期待されています。また、IR Hubの提供する他社事例検索機能や適時開示案件の管理機能により、適時開示業務の正確性と迅速性が確保されるとともに、情報開示プロセスの透明性向上と内部統制強化も実現します。

実際の導入事例としては、IR Hubはすでに複数の上場企業に先行導入されており、IR業務の品質向上と工数削減を実現していることが報告されています。具体的な企業名は公表されていませんが、開発元のGunosy自身も2025年1月の適時開示より、IR Hubを用いた日英同時開示を開始しています。Gunosyの事例では、英文開示の導入による工数負担は最小限に抑えられており、スムーズな開示業務を実現していることが確認されています。

IR Hubの導入により、企業のIR担当者は文書作成や翻訳などの定型的な作業から解放され、本来注力すべき投資家との戦略的なコミュニケーションに専念できる環境が整います。これは、IR業務の質的向上だけでなく、IR担当者の業務満足度向上や、より付加価値の高い活動への時間配分を可能にするという副次的効果も期待できます。

【専門用語解説】 内部統制:企業内部において、業務の有効性・効率性、財務報告の信頼性、関連法規の遵守、資産の保全を確保するために整備・運用される仕組みのこと。適切な内部統制システムの構築は、企業の透明性を高め、投資家からの信頼獲得につながる重要な経営課題となっている。

セキュリティ対策と信頼性

IR業務では、公表前の決算情報や重要な経営判断など、インサイダー情報を取り扱うことが多く、情報セキュリティの確保は極めて重要です。IR HubはこうしたIR業務の特性を踏まえ、業界標準のセキュリティ対策に準拠した厳格なデータ管理体制を整えています。

具体的には、すべてのデータは暗号化され、厳重なアクセス制御が施された国内データセンターで管理されています。これにより、不正アクセスや情報漏洩のリスクを最小化し、高い信頼性を確保しています。また、権限管理やアクセスログの記録など、企業内での情報管理ガバナンスを支援する機能も備えており、内部からの情報流出防止対策も講じられています。

こうしたセキュリティ対策は、単にシステム面での対応だけでなく、運用面でのサポートや定期的な脆弱性チェックなど、総合的な情報保護体制として構築されています。これにより、企業はIR Hubを安心して活用し、重要な企業情報の管理と適切な開示を両立させることができます。

【専門用語解説】 インサイダー情報:未公開の重要な会社情報で、公表されれば証券の価格に重大な影響を与える可能性がある情報。この情報を持つ者(インサイダー)による証券取引は、インサイダー取引として法律で禁止されている。典型的には決算情報、合併・買収計画、新製品開発など。適切な管理と適時の公平な開示が求められる。

IR Hubの今後の展望

Gunosyでは、IR Hubの機能拡充を図りながら、生成AIを軸としたプロダクトラインを強化し、社内で培ったDXの成果を広く企業へ提供していく方針です。IR Hubは同社の生成AI活用事業の第一弾であり、今後も様々な業務プロセスにAI技術を適用した新たなソリューションが展開される可能性があります。

具体的な機能拡充としては、よりパーソナライズされた文書作成支援、多言語対応の強化、企業独自のスタイルやトーンに合わせた文書生成機能など、生成AIの特性を活かした高度な機能の追加が期待されます。また、アナリストレポートの分析や投資家動向の予測など、IR業務の戦略的側面を支援する機能も今後展開される可能性があるでしょう。

IR業務のみならず、企業のコミュニケーション全般におけるDXを推進するツールとしても、IR Hubの応用範囲は広がっていくと考えられます。特に、情報の正確性と迅速な伝達が求められる企業コミュニケーションの様々な場面で、生成AI技術の活用が進んでいくことは間違いないでしょう。

まとめ

株式会社Gunosyが開発した生成AI活用型の適時開示プラットフォーム「IR Hub」は、2025年4月からの東証プライム市場における英文開示義務化という課題に対応するだけでなく、IR業務全体の効率化と高度化を実現するソリューションとして注目されています。

生成AIを活用した開示文書作成、ワンクリックでの高精度英文翻訳、適時開示事例検索という3つの革新機能により、企業のIR担当者の業務負担を軽減しつつ、情報開示の質と速度を向上させることが可能になります。厳格なセキュリティ対策も講じられており、インサイダー情報を扱うIR業務に安心して活用できる点も大きな特徴です。

企業のグローバル化が進み、海外投資家向けの情報開示が一層重要性を増す中、IR Hubのような生成AI活用型プラットフォームは、日本企業のIR活動の質的向上と国際競争力強化に貢献するものと期待されます。

詳しくは:https://irhub.jp/

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執筆者のプロフィール
関野 良和
大手国内生命保険会社や保険マーケティングに精通し、保険専門のライターとして多メディアで掲載実績がある。監修業務にも携わっており、独立後101LIFEのメディア運営者として抜擢された。 金融系コンテンツの執筆も得意としており、グローバルマクロの視点から幅広いアセットクラスをカバーしているが、特に日本株投資に注力をしており、独自の切り口でレポートを行う。 趣味のグルメ旅行と情報収集を兼ねた企業訪問により全国を移動しながらグルメ情報にも精通している。
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