大王製紙株式会社(3880)が赤字に、業績が悪化し株価も下落したのはなぜ?~日本株個別銘柄についてのザックリ解説

大王製紙株式会社(3880)が赤字に、業績が悪化し株価も下落したのはなぜ?~日本株個別銘柄についてのザックリ解説
ライター:関野 良和

大王製紙株式会社の業績が悪化して赤字転落、原因と株の買い時も探る

大王製紙株式会社は、「エリエール」や「グーン」などの製品で知られる日本の大手製紙メーカーですが、近年業績が著しく悪化しています。2025年3月期の連結最終損益は70億円の赤字になる見通しであり、前期の45億円の黒字から大幅に悪化しています。当初はトントンを見込んでいた予想が一転して赤字になったことで、市場に大きな衝撃を与えました。本レポートでは、大王製紙の業績悪化の原因を多角的に分析し、今後の展望について考察します。

業績悪化の主要因

原燃料価格高騰の深刻な影響

大王製紙の業績悪化の最大の要因として、原燃料価格の高騰があります。製紙産業は製造過程で大量のエネルギーを必要とする産業であり、特に原料となるチップを高温・高圧で溶かす工程では多大なエネルギーを消費します。大王製紙は製造過程において大量の石炭を使用していますが、2022年8月の石炭価格はドルベースで前年同月比2倍以上に跳ね上がりました。この燃料高は紙・板紙事業においては上半期だけで225億円もの利益を押し下げる要因となり、ティッシュペーパーなどのホーム&パーソナルケア事業も72億円押し下げられるという甚大な影響を受けました。

さらに、円安の影響も加わったことで、輸入原燃料のコスト増に拍車をかけました。2022年時点で、大王製紙は通期の業績予想を営業利益250億円、純利益100億円から一転して140億円の営業損失、300億円の純損失へと大幅に下方修正する事態に陥りました。

中国事業の構造的問題

業績悪化のもう一つの大きな要因は、中国における事業環境の悪化です。中国の景気低迷によって、大王製紙の家庭紙事業が海外で大きく落ち込んでいます。特に主力製品であるベビーケア商品は、中国市場において高級品の需要が縮小しており、さらに現地ブランドとの競争激化により、事業の回復が大幅に遅れています。

この状況を受けて、大王製紙は中国の事業用資産の減損損失を計上せざるを得なくなり、さらに繰り延べ税金資産を取り崩したことが2025年3月期の業績悪化に大きく影響しています。中国市場における状況の改善が見られない中、事業の立て直しが急務となっています。

国内市場の構造的縮小

日本国内においても、デジタル化の進展や少子高齢化により、紙の需要が年々減少しています。特に新聞用紙や出版印刷用紙といったメディア用途の紙の需要減少が顕著であり、大王製紙の主力事業を直撃しています。

需要の構造的な減少に加え、2024年度第1四半期(4-6月期)には設備の修繕により固定費が増加し、売上営業利益率は前年同期の1.7%から1.2%へと悪化しました。また、前年に計上していた政策保有株の売却益や受取保険金などの一時的な収益がなくなったことも、利益の減少に拍車をかけました。

大王製紙の戦略的対応と今後の展望

第5次中期事業計画による基盤強化

大王製紙は、業績回復に向けて「Reframe ~基盤の強化~」と名付けた第5次中期事業計画(2024年4月~2027年3月)を策定しました。この計画では、2026年度の売上高目標を7,400億円、営業利益を300億円(営業利益率4.1%)としており、ROEは4.5%、ネットD/Eレシオは1.2倍を目指しています。これは過去の中期計画と比較しても野心的な数字であり、大王製紙が構造的な変革に本気で取り組む姿勢を示しています。

中国事業の再構築

中国事業については、根本的な改革を進めることとしています。具体的には、ベビーケア製品に偏っていた事業構造を見直し、生理用品などのフェミニンケア製品の比率を高める方針を打ち出しています。また、中国で不採算となっている衛生用紙事業については、一部の生産設備を日本に移管することで、収益性の改善を図る計画です。

このような戦略的な事業ポートフォリオの再編を通じて、中国市場における収益基盤の立て直しを図っています。ただし、中国の消費者市場の動向や現地競合との激しい競争を考慮すると、短期的な業績回復は容易ではなく、中長期的な取り組みが必要となるでしょう。

事業構造の戦略的転換

大王製紙は、縮小するメディア用途の紙から成長が見込める梱包・包装用途の紙へと事業構造を転換する戦略を進めています。具体的には、洋紙マシンを板紙マシンに改造し、アジア市場への板紙・クラフト紙の輸出を拡大する計画です。

また、環境配慮の高まりを背景に、プラスチック代替素材としての包装用紙の拡販や、生分解性素材を使用した紙カトラリー「エリプラペーパー」の用途拡大にも注力しています。これらの取り組みは、SDGsやサステナビリティへの社会的関心の高まりとも合致しており、新たな市場開拓の可能性を秘めています。

環境対応とコスト構造の改善

大王製紙は、2030年度に化石由来CO2を2013年度比で46%削減するという目標を掲げており、3つの主要施策を実行しています。一つ目はいわき大王製紙4号ボイラー(バイオマスボイラー)の再稼働、二つ目は省エネルギー設備の導入(工場廃熱の有効利用、太陽光発電設備の導入など)、三つ目は生産品種の統合・見直しによる生産効率の改善です。

これらの施策は環境負荷の低減だけでなく、エネルギーコストの削減にも寄与し、燃料高に苦しむ同社のコスト構造改善に繋がることが期待されます。特に石炭への依存度を下げることは、近年の燃料価格高騰を考慮すると、経営の安定化に大きく貢献する可能性があります。

グローバル展開の強化

大王製紙は、国内市場の縮小を背景に、「エリアのTransformation」として海外市場での事業拡大を目指しています。特にホーム&パーソナルケア事業の海外売上比率を2026年度には17.6%まで引き上げる目標を掲げており、国内市場の成熟化に対応した成長戦略の柱としています。

ただし、中国事業の苦戦を考慮すると、グローバル展開においては慎重かつ戦略的なアプローチが必要です。特に進出先の市場環境や競合状況を十分に分析し、自社の強みを活かせる分野に集中投資することが重要となるでしょう。

まとめると

大王製紙の業績悪化は、原燃料価格の高騰、中国事業の不振、国内紙需要の構造的減少など、複数の要因が重なった結果です。特に製紙業界特有のエネルギー多消費型の産業構造が、燃料高と円安によって大きな影響を受けました。

今後の展望については、第5次中期事業計画に基づく事業構造の転換や環境対応の強化、グローバル展開の拡大などを通じて、収益基盤の再構築を目指しています。特に環境に配慮した製品開発や事業ポートフォリオの見直しは、将来の成長に向けた重要な取り組みと言えるでしょう。

ただし、足元の業績は厳しい状況が続いており、2025年3月期の配当も16円から14円に減額されるなど、短期的には痛みを伴う改革となっています。大王製紙が掲げる「やさしい未来」の実現に向けて、事業構造転換のスピードと実効性がカギを握るでしょう。業界環境の変化に迅速に対応しながら、サステナブルな成長を実現できるかどうかが、今後数年間の大きな課題となります。

大王製紙株式会社の業績・株価が復活するための条件とは?

大王製紙の業績悪化と株価低迷の背景には、原燃料価格高騰・中国事業の不振・国内市場の構造的縮小が主因として挙げられます。2025年3月期の連結最終損益が70億円の赤字に転落する見込みです。今後の回復を実現するためには、以下の要素が不可欠です。

原料価格リスクの軽減とコスト構造改善

製紙業界特有のエネルギー多消費型産業構造が原燃料価格変動に脆弱な点は最大の課題です。特に石炭依存度の高さが燃料高の影響を受けやすく、2022年度には上半期単体で225億円の利益圧迫が発生しました。対応策として、以下の施策が進められています。

  • バイオマスボイラー導入:いわき工場の4号ボイラー再稼働で石炭使用量を削減
  • 省エネルギー設備導入:工場廃熱の有効利用や太陽光発電設備の拡充
  • チップ調達戦略:国内サプライヤーの比率向上で輸入依存軽減

これらにより、2030年度までに化石燃料CO2を2013年度比46%削減を目標としつつ、石炭価格の安定化でコスト構造改善が必須です。

中国事業の再構築と海外戦略強化

中国市場ではベビーケア商品の高級化需要低迷と現地競合の激化が深刻です。対応として:

  • フェミニンケア商品比率拡大:生理用品などの高付加価値品に事業比率をシフト
  • 不採算事業の生産設備移管:衛生用紙生産設備の一部を日本に移管
  • 新商品投入:若年層向けシリーズの充実と現地ブランドとの差別化

ただし、中国市場の景気回復が遅れる状況下で、短期的な業績改善は困難と予測されます。

国内市場の構造転換と新事業創出

デジタル化と少子高齢化が進む日本市場では、以下の施策が推進中です。

  • 包装用紙へのシフト:洋紙マシンの改造で板紙・クラフト紙生産拡大
  • 環境配慮製品開発:生分解性紙カトラリー「エリプラペーパー」の用途拡大
  • バイオリファイナリー事業:古紙活用によるバイオ燃料・樹脂原料の商用生産実証開始

これらはSDGs対応と新市場開拓の両立を図る戦略ですが、競合他社との差別化が成否を分けます。

グローバル展開の強化と財務基盤の整備

海外売上比率を2026年度に17.6%まで引き上げる目標を掲げています。特に:

  • ブラジル・トルコ市場:原材料価格高騰を背景に段階的な価格改定を継続
  • 戦略的提携強化:北越コーポレーションとの物流効率化や共同開発
  • M&A検討:包装関連企業の買収で事業基盤強化

ただし、中国事業の不振が海外売上比率向上を阻害する可能性があります。

組織再編と人材育成

過去の縦割り組織が柔軟な対応を阻害した教訓から、横串組織の導入や当事者意識の強化が進められています。特に:

  • 営業・マーケティング統合:交錯物流解消と収益構造強化
  • 希望退職制度:組織スリム化と人的コスト削減

これらの改革が生産効率向上と経営判断の迅速化につながるかが焦点です。

株価復活の条件

株価復活には以下の要素が不可欠です。

  1. 業績安定化:原料価格の安定化とコスト構造改善による継続的黒字確保
  2. 投資家の信頼回復:財務規律の徹底と中期計画の達成可能性の実証
  3. 成長分野の開拓:環境対応製品と新事業の実証生産成功
  4. 中国事業の回復:現地市場の需要動向と競合環境の変化に迅速な対応

特に、第5次中期事業計画で掲げた2026年度の営業利益300億円達成が、投資家の期待を後押しするポイントとなります。ただし、原材料価格や為替レートの変動リスクを常に抱える業界特性から、予測誤差の管理が重要です。

大王製紙が持続的成長を実現するためには、原料価格リスクのヘッジングと事業構造の多角化が不可欠です。環境配慮製品と新素材事業の成功が、当社の将来像を左右する重要な分岐点となりそうです。

大王製紙株式会社の株に投資するための条件を指標などから考えてみた

大王製紙株式会社は、「エリエール」ブランドで知られる総合製紙メーカーですが、直近では業績悪化に直面しています。2025年3月期の連結最終損益は70億円の赤字見通しとなっており、前期の45億円黒字から大幅に悪化しています。投資判断をするためには、複数の視点から条件を整理する必要があります。

業績回復の確認ポイント

原料価格リスクへの対応進捗

製紙業界は原燃料価格の変動に脆弱な産業構造を持っています。大王製紙は製造過程で大量の石炭を使用しており、2022年には原燃料高で紙・板紙事業が上半期だけで225億円の利益押し下げ要因となりました。投資判断の重要条件は:

  • バイオマスボイラー導入効果の確認(いわき大王製紙4号ボイラーの再稼働)
  • 省エネルギー設備の導入進捗(工場廃熱の有効活用、太陽光発電設備の導入など)
  • CO2削減目標(2030年度に2013年度比46%削減)への進捗状況

これらの取り組みが収益改善につながるか見極めることが重要です。

中国事業の回復兆候

大王製紙の業績悪化のもう一つの要因は中国事業の不振です。中国市場の景気低迷と競争激化により、主力のベビーケア商品が苦戦しています。投資判断では以下の点を確認すべきです。

  • フェミニンケア製品へのシフト戦略の成功度合い
  • 不採算衛生用紙事業の生産設備の日本移管による収益改善効果
  • 中国市場の需要動向と競合環境の変化

戦略的事業構造転換の進捗

大王製紙は縮小するメディア用途の紙から、成長が見込める包装用途へと事業構造を転換する戦略を進めています。投資判断の条件として:

  • 洋紙マシンから板紙マシンへの転換状況
  • 環境配慮型製品(プラスチック代替素材、「エリプラペーパー」など)の売上貢献度
  • 北越コーポレーションとの戦略的業務提携効果(2026年度に20億円の営業利益増加目標)

財務指標と株価評価

財務体質の強化

第5次中期事業計画(2024年4月~2027年3月)では、「Reframe ~基盤の強化~」をテーマに財務改善に取り組んでいます。投資判断では:

  • ネットD/Eレシオの改善(目標1.2倍)
  • キャッシュフロー創出力の向上
  • 信用格付けA格取得への進捗

株価水準の割安感

現在の株価水準(851円、2025年3月14日時点)における投資妙味を判断するために:

  • PBR 0.60倍と割安感(BPS 1,415円台)
  • 目標株価900円との乖離(約6%の上昇余地)
  • 理論株価との比較(PBR基準793円、PER基準1,034円)

AI株価診断では過去比較で割安との判断がありますが、一方で相対比較では割高との見方もあります。ただし、PBRが一倍割れしているため、将来のキャッシュフロー見通しが悪化しない限り、長期的には株価が下支えされる可能性があります。

株主還元の魅力

投資判断の際には株主還元性も重要な要素です。

  • 配当利回り1.65%(2025年3月期は16円から14円に減配予定)
  • 株主優待:100株以上で1,500円相当、300株以上で3,000円相当の自社商品詰め合わせ
  • 継続保有条件があり、3月末日・9月末日現在の株主名簿に同一株主番号で連続3回以上記載されていることが必要

第5次中期事業計画の目標達成可能性

2026年度の目標達成が投資判断の重要な分岐点となります。

  • 売上高7,400億円
  • 営業利益300億円(営業利益率4.1%)
  • ROE 4.5%

これらの目標に対する四半期ごとの進捗確認が必要です。

投資タイミングの判断

転換足チャートによると、直近では「買い継続」シグナルが出ており、テクニカル面では買いのタイミングである可能性を示唆しています。ただし、ファンダメンタルズの改善がない限り、短期的な反発に留まる可能性もあります。

結論

大王製紙株式会社への投資は、現時点ではリスクと機会が混在しています。PBRの割安感や長期的な事業構造転換の可能性はポジティブ要因ですが、原燃料価格の変動リスクや中国事業の不振はネガティブ要因です。投資判断においては、第5次中期事業計画の進捗状況を四半期ごとに確認し、特に原燃料コスト削減と事業構造転換の成功兆候を見極めることが重要です。投資するなら、これらの改善兆候が見られ始めたタイミングで検討するのが理想的でしょう。

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最終更新日:2025年3月12日

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執筆者のプロフィール
関野 良和
大手国内生命保険会社や保険マーケティングに精通し、保険専門のライターとして多メディアで掲載実績がある。監修業務にも携わっており、独立後101LIFEのメディア運営者として抜擢された。 金融系コンテンツの執筆も得意としており、グローバルマクロの視点から幅広いアセットクラスをカバーしているが、特に日本株投資に注力をしており、独自の切り口でレポートを行う。 趣味のグルメ旅行と情報収集を兼ねた企業訪問により全国を移動しながらグルメ情報にも精通している。
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