メキシコペソは危ないので”やめたほうがいい”といわれているのはなぜ?

メキシコペソは危ないので”やめたほうがいい”といわれているのはなぜ?
ライター:関野 良和

”メキシコペソはヤバイのでやめたほうがいい”と口コミや評判で言われている原因と真相についてデメリットを掘り下げて解説します

メキシコペソ円への投資は本当に危ないのか?

メキシコペソが「危ない」と噂されることについてネットの口コミや評判から真相を掘り下げてみました。2020年以降「最強通貨」とも称されてきたメキシコペソですが、2024年に入ってからの政治情勢の変化や相場の急落から、投資対象として不安視する声も増えているようです。本記事では、メキシコペソが「危ない」と言われる理由と、その一方での魅力や肯定的側面も含めて、客観的に情報をまとめていきます。

メキシコペソの基本的特徴

メキシコペソは新興国通貨に分類されており、主要国通貨とは異なる特有の性質を持っています。その最大の特徴は高金利通貨であることで、2023年時点では政策金利が11.25%という非常に高い水準に設定されていました。2024年には利下げサイクルに入り、11月時点では10.25%まで引き下げられていますが、それでも日本や米国などの主要国と比較すると高い金利水準を維持しています。

また、メキシコは米国と国境を接しており、経済的な結びつきが強いという特徴があります。特に米国で働くメキシコ人からの郷里送金が経済を支える重要な要素となっているようです。2022年の郷里送金額は584億9743万600ドルを超え、前年比で13.4%増加したと報告されています。この送金の95.5%が米国からのものであり、米国経済との関連性が非常に高いことがわかります。

これらの背景から、メキシコペソは2020年のコロナショック以降、特に対円では4年あまりで倍以上に価値が上昇し、「最強通貨」との称号を得るほどの強さを示してきました。

メキシコペソが”危ない”と噂される原因

1. 政治リスクの高まり

2024年6月にメキシコで実施された大統領選挙と議会選挙の結果、左派政権が勝利し、与党連合が憲法改正に必要な議席(3分の2以上)を確保したことが大きな転換点となったようです。この選挙結果により、司法制度改革を含む憲法改正が現実味を帯びてきました。

実際、2024年9月には司法改革法案が議会で承認され、最高裁判所判事を含む裁判官の選出方法が変更されることになりました。この改革は三権分立が形骸化するリスクを孕んでおり、米国やカナダといった貿易相手国からも懸念の声が上がっていると言われています。

こうした政治的な変化が、財政政策の悪化につながるのではないかという不安も市場に広がっています。実際、米格付け会社ムーディーズは2024年11月にメキシコの信用格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ(弱含み)」に引き下げ、中長期的な格下げの可能性を示唆しました。メキシコの格付けは現時点ではジャンク級を2段階上回っていますが、さらなる格下げが進むと投資家の売りを誘発し、ペソ安を加速させる恐れもあるようです。

2. 為替変動リスクの高さ

メキシコペソは新興国通貨であり、政治情勢の不安や金融政策、急激なインフレ、インターバンク市場の流動性の低さから、主要通貨と比較して急激な価格変動が発生するリスクが高いという欠点があります。特に欧米の取引参加者が少なくなるクリスマスや年末年始は流動性が低下し、相場が急変する可能性が高まると言われています。

2024年6月には、大統領選挙の結果を受けて「ペソ・ショック」と呼ばれる急落が発生しました。週明け2営業日で最大8%以上の暴落を記録し、高値からの最大下落率は10%に達しました。これを米ドル/円に換算すると、160円から一気に145円割れとなる規模の下落だったとのことです。

このような急激な価値の変動は投資家にとって”やばい”状況となり得ます。特にメキシコペソはスワップポイントを狙った買いポジションに偏る傾向があり、何らかのネガティブニュースがきっかけで売り注文が殺到すると、相場が急変する可能性があるようです。

3. 米国の政策変更リスク

米国の次期大統領にトランプ氏が返り咲くことで、メキシコ経済に大きな影響が及ぶ懸念もあります。トランプ氏は不法移民の強制送還や、メキシコからの輸入品に高率の関税をかけると宣言しており、これが実現すると二つの面でメキシコペソにマイナスとなる可能性があると言われています。

まず、不法移民を含めたメキシコからの移民が米国から強制送還されると、これまでペソ高の大きな柱となってきた郷里送金が減少する恐れがあります。また、輸入関税の引き上げはメキシコからの輸出に打撃を与え、経済成長を鈍化させる可能性があるようです。

実際、中国のEV大手BYDはメキシコでの新工場建設を米大統領選挙が終わるまで凍結すると報じられており、トランプ政権の政策への懸念が既にメキシコへの投資に影響を与え始めているようです。

4. 金融政策の転換

メキシコは2024年3月から利下げサイクルに入り、8月にはインフレの再燃リスクがあったにもかかわらず追加の利下げを決定しました。政策金利は11.25%から10.75%へと引き下げられています。

この金融政策の転換は、これまで好調だったメキシコペソの上昇に水を差す要因となっているようです。まだ高金利を維持しているとはいえ、利下げ傾向が続くことで、高金利通貨としての魅力が徐々に薄れていく可能性があると言われています。

5. 投機的ポジションの過度な集中

メキシコペソは「最強通貨」との評価から、投機筋による買いポジションが集中していたという側面もあります。米商品先物取引委員会(CFTC)の統計によると、2024年5月時点で投機筋のメキシコペソ買い越し(米ドル売り越し)は12万枚と、対米ドルでの買い越しとしては最大規模となっていました。

一方、円の売り越し(米ドル買い越し)は15万枚で、これは主要通貨の中では最大の売り越しでした。このデータから、メキシコペソ買い・円売りのポジションが相当な規模になっていた可能性が指摘されています。

このようなポジションの集中は、何らかのきっかけで巻き戻しが起きた場合に、価格変動を増幅させるリスクがあるようです。実際に2024年6月のペソショックは、こうした投機的ポジションの巻き戻しが一因となった可能性もあると言われています。

メキシコペソの肯定的側面

1. 高金利によるスワップポイントの魅力

メキシコペソの最大の魅力は、その高い金利水準です。2024年に入って利下げが進んでいるとはいえ、日本の0.25%や米国の5.25-5.5%と比較すると、メキシコの10.25%という政策金利は非常に高い水準と言えます。

この高金利を背景に、FX取引におけるスワップポイントが非常に魅力的な水準となっています。例えば、あるFX会社ではメキシコペソ/円のスワップポイントが1日あたり280円、年間では102,200円(10万通貨あたり)と報告されています。これは長期保有による収益を狙う投資家にとって、大きな魅力と言えるでしょう。

2. 経済的な強み

メキシコの主力産業である自動車産業は引き続き堅調で、2023年4月の生産台数は前年比17.1%増、輸出台数も5.0%増となっていました。また、米国経済との強い結びつきから、米国の好調な経済の恩恵を受ける側面もあるようです。

2023年第1四半期のGDP速報値は前期比+1.1%となり、前期の+0.5%から加速していました。このようにメキシコ経済は利上げにもかかわらず冷え込んでおらず、これがペソ買いの支援材料となっていたと考えられています。

3. 長期的な上昇トレンド

メキシコペソは2020年のコロナショック以降、対円で4円台から最近にかけて9円を大きく上回るまで、4年余りで倍以上になるという記録的な上昇相場を続けてきました。このような長期的な上昇トレンドは、為替差益を狙う投資家にとって魅力的な対象となっていたようです。

2023年5月時点では「メキシコペソは高金利通貨にもかかわらず緩やかな上昇トレンドに入っている」と評価されており、「為替差益とスワップポイントを一挙両得が狙える通貨」として注目されていました。

4. 比較的少額から始められる投資

メキシコペソは低資金(3万円程度)からFX取引が可能という特徴があります。これは、小額から投資を始めたい個人投資家にとって参入障壁が低いメリットと言えるでしょう。

また、価格(レート)が横ばいが続く時期もあり、初心者にもチャレンジしやすい通貨とされていました。

投資する際の注意点

1. 流動性リスクへの備え

メキシコペソは主要国通貨と比較して流動性が低く、特に欧米の市場参加者が少なくなる時期には流動性がさらに低下する可能性があります。そのため、大きなポジションを持つ場合や、クリスマスや年末年始などの時期に取引する場合は特に注意が必要です。

投資経験が浅いうちは、少ないポジションで取引してリスクを管理することが推奨されているようです。

2. 政治リスクの継続的な監視

メキシコの政治情勢、特に憲法改正や財政政策の動向は今後も注視すべき要素です。さらなる左派政権の強権化が進むと、市場の反応が厳しくなる可能性もあると言われています。

また、米国との関係悪化や貿易摩擦のリスクも考慮すべき要素です。特に米国の次期政権の政策がメキシコ経済にどのような影響を与えるかは、注意深く監視する必要があるでしょう。

3. 金融政策と金利動向の把握

メキシコは利下げサイクルに入っており、今後も政策金利の引き下げが続く可能性があります。金利水準の変化はスワップポイントに直接影響するため、金融政策の動向には常に注意を払う必要があるようです。

また、インフレの再燃リスクもあり、経済指標の動向も重要な判断材料となるでしょう。メキシコ中央銀行は、インフレ率が目標レンジ(2~4%)に低下するのは2024年10―12月期との見通しを示していると報告されています。

4. 相場急変リスクへの対応

メキシコペソは新興国通貨としての特性から、相場が急変するリスクが常にあります。特に重要な経済指標の発表や政治的なイベント時には、価格が大きく変動する可能性があるようです。

そのため、適切なストップロス(損切り)の設定や、ポジションサイズの管理など、リスク管理の手法を身につけておくことが重要だと言われています。

まとめ

メキシコペソは「最強通貨」と称されるほどの上昇を見せてきた一方で、政治リスク、為替変動リスク、米国の政策変更リスクなど、複数の要因から「危ない」と噂される状況になっています。特に2024年6月の「ペソ・ショック」以降、多くの投資家が不安を感じるような急落に見舞われ、今後の見通しにも不透明感が増しているようです。

高金利通貨としての魅力は依然として存在するものの、政治的な不確実性や米国との関係悪化懸念から、以前ほどの安定感は失われつつあるようです。特に投資経験が浅い方や、リスク許容度が低い方にとっては、現時点でのメキシコペソへの大きな投資は「やめたほうがいい」という意見も少なくないようです。

ただし、すべての投資には光と影があり、リスクとリターンは常に表裏一体です。メキシコペソの高金利によるスワップ収入は依然として魅力的であり、適切なリスク管理を行いながら長期的な視点で投資する方法も考えられます。

最終的には、メキシコペソが「危ない」かどうかは、投資家個人のリスク許容度や投資スタイル、投資目的によって判断が分かれるものでしょう。重要なのは、メキシコペソのデメリットとメリットの両方を理解し、自分自身の投資方針にどう適合するかを冷静に判断することです。

日々変化する国際情勢や金融政策の動向を注視しながら、慎重な投資判断を心がけることが、メキシコペソに限らずすべての投資において重要なポイントと言えるでしょう。

将来に向けての展望

メキシコペソの今後については、米国の新政権の政策動向、メキシコ国内の政治情勢の変化、そして世界的な金融政策の方向性などが大きな影響を与えると考えられます。特に米国との経済的な結びつきが強いメキシコにとって、トランプ政権の移民政策や関税政策は重要な焦点となるでしょう。

また、メキシコ中央銀行の金融政策も注目されます。インフレ率がターゲットに向かって低下するにつれて、さらなる利下げが行われる可能性もありますが、その場合はスワップポイントの魅力が薄れていく恐れもあります。

一方で、メキシコ経済の基盤が強固であれば、政治的な不透明感が解消された後には再び上昇トレンドに回帰する可能性もあるでしょう。特に米国経済が堅調を維持し、メキシコへの郷里送金が継続されれば、ペソにとっての支援材料となる可能性があると言われています。

いずれにしても、メキシコペソへの投資を検討する際には、リスクとリターンのバランスを慎重に評価し、自分自身の投資スタイルに合った判断をすることが大切です。短期的な相場変動に一喜一憂するのではなく、長期的な視点を持ち、適切なリスク管理を行いながら投資することが重要だと考えられます。

 

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執筆者のプロフィール
関野 良和
大手国内生命保険会社や保険マーケティングに精通し、保険専門のライターとして多メディアで掲載実績がある。監修業務にも携わっており、独立後101LIFEのメディア運営者として抜擢された。 金融系コンテンツの執筆も得意としており、グローバルマクロの視点から幅広いアセットクラスをカバーしているが、特に日本株投資に注力をしており、独自の切り口でレポートを行う。 趣味のグルメ旅行と情報収集を兼ねた企業訪問により全国を移動しながらグルメ情報にも精通している。
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