トルコリラは”やめたほうがいい”といわれているのはなぜ?

トルコリラは”やめたほうがいい”といわれているのはなぜ?
ライター:関野 良和

”トルコリラはヤバイのでやめたほうがいい”と口コミや評判で言われている原因と真相についてデメリットを掘り下げて解説します

トルコリラ円への投資は本当に”やばい”のか?

トルコリラ投資についてネットの口コミや評判から真相を掘り下げてみました。高金利通貨として人気を集める一方で、「やめたほうがいい」と警告する声も少なくありません。トルコリラ投資は本当に危険なのでしょうか、それとも誤解があるのでしょうか。この記事では、トルコリラの現状、リスク、そして可能性について多角的に検証していきます。

トルコリラの基本情報と現状

トルコリラはトルコ共和国の法定通貨で、ISOコードでは「TRY」と表記されます。2005年以前は旧トルコリラが流通していましたが、インフレの進行により通貨価値が下落したため、100万旧トルコリラを1通貨として現在のトルコリラが発行されました。

2025年1月時点では、トルコリラは「4.3円前後」で価格が推移しているようです。これは過去と比較すると大きく価値が下落していることを示しています。2015年頃には1リラ=50円程度であったことを考えると、10年足らずで価値が約12分の1になったことになります。

トルコは人口8,468万人を抱える大国で、イランやドイツと同等の人口規模を持っています。主要産業はサービス業(57%)で、物価上昇率が14.6%もあり、高いインフレが発生している状況です。

トルコリラが「やめたほうがいい」と噂される主な理由

1. 長期的な通貨価値の下落

トルコリラの最も大きなデメリットは、長期にわたる通貨価値の下落傾向です。この下落は一時的なものではなく、継続的に進行しているようです。2018年にはアメリカとトルコの間の外交問題でトルコリラが大暴落し、10年前に90円台だった対円レートが16円を割り込むまでに下落しました。その後も下落は続き、2021年末には「1リラ=6円台前半」という史上最安値をつけたと言われています。

この通貨価値の長期的な下落は、高金利によるメリットを相殺してしまうほどの影響を持っています。高い金利で得られるはずの利益が、為替の下落によって消えてしまうという現象が起きているのです。

2. 政治的リスクの高さ

トルコの政治状況はトルコリラの価値に大きな影響を及ぼしています。現在のトルコはエルドアン大統領の強い影響力のもとにあり、同大統領は2003年から2014年までは首相、2014年から現在まで大統領を務めており、20年近くトルコ政治の最前線に立っています。

エルドアン大統領は独裁傾向があるとされ、2016年7月の軍部によるクーデターが失敗した後、さらに独裁色を強めたと言われています。トルコの中央銀行もエルドアン大統領に逆らえない状況にあるようです。

このような政治状況は、投資家にとって予測不可能なリスクとなります。2025年1月のニュースによれば、「トルコ最大の都市イスタンブールのイマモール市長が汚職やテロ組織への資金提供などの容疑で拘束」されるという事件が発生し、エルドアン大統領の政敵である同市長の拘束は政局リスクを高め、トルコリラの暴落につながったとされています。

3. 高インフレとそのスパイラル

トルコでは高いインフレが継続しており、2021年12月の消費者物価は前年比+36%に達していました。この高インフレの背景には、エルドアン大統領の特異な経済政策があると言われています。

通常、インフレ率が上昇すると中央銀行は金利を引き上げて物価の安定を図りますが、トルコではエルドアン大統領が「低金利が経済にプラスに働く」との強い信念を持ち、中央銀行に利下げを求めていました。そのため、中央銀行総裁を含む高官が更迭され、インフレと通貨安のスパイラルが生じていたようです。

このような状況は、投資家にとって非常に「やばい」状況と言えるでしょう。インフレによる実質的な購買力の低下と通貨価値の下落が同時に進行するという最悪のシナリオが現実となっているのです。

4. 投機的な値動きによるリスク

トルコリラは新興国通貨として投機的な値動きを見せることがあります。先進国通貨と比較して、トルコリラの為替市場での取引量は少なく、機関投資家などが大きな売買注文を入れると、一気に値動きが生じる可能性があるのです。

このような投機的な値動きは、短期的な予測を困難にし、投資家にとって大きなリスクとなります。特に個人投資家がレバレッジをかけて取引を行う場合、予期せぬ大きな値動きによって資産が大きく減少する可能性があるのです。

5. 経常赤字問題と外貨準備の不足

トルコ経済における2000年代以降の主要な懸念要因の一つが、経常赤字の拡大です。経常赤字の大きさは国際金融市場で大きなリスクファクターと認識され、新興国通貨への下落圧力が高まる局面では、トルコは「フラジャイル」な国として真っ先に通貨売りの対象になるケースが多いと言われています。

さらに懸念されるのは、トルコの外貨準備の不足です。短期対外債務残高を外貨準備で割った値を主要な新興国間で比較すると、トルコは他国を大きく上回り、100%をはるかに超えていると報告されています。これは、短期対外債務を直ちに全額引き揚げられた場合、保有する外貨準備を全部使っても返済し切れない状況を示しています。

このような状況は、外貨繰りが困難になり対外債務返済に支障をきたしてデフォルト状態に陥るリスクを高めていると考えられます。

6. 投資家の心理的バイアス

トルコリラ投資で失敗する人々の特徴として、心理的バイアスの影響が指摘されています。「目に見える金利の高さ」につられてしまうことや、「スワップポイントばかり重視」することが失敗の原因となっているようです。

また、高いレバレッジをかけることも失敗の原因として挙げられています。レバレッジは自分の資産を担保に資産以上のお金を動かせる便利な機能ですが、上手く使えば少ない資金で大きな利益を狙える一方で、損失も大きくなるリスクがあります。

トルコリラ投資の良い評判とメリット

トルコリラ投資には多くの欠点があると言われていますが、一方で魅力的な側面も存在します。ここでは、トルコリラ投資の良い評判やメリットについて見ていきましょう。

1. 高いスワップポイント

トルコリラの最大の特徴はその金利の高さです。南アフリカランド、ブラジルレアルなどと並ぶ高金利通貨の一つとして知られ、より大きなインカムゲインを求める投資家からの人気があります。

実際、トルコリラ/円のスワップポイントは業界最高水準とされ、FX会社によっては1日あたり52円というトップクラスの高さを提供しているところもあるようです。この高いスワップポイントは、長期保有による収益を期待する投資家にとって大きな魅力となっています。

2. トルコの成長ポテンシャル

大地震で大きな被害を受けたとはいえ、トルコの経済成長ポテンシャルの高さは損なわれていないと考えられています。トルコは市場としても、EU・中東・北アフリカへのゲートウェイとしても魅力が高く、外国からの投資流入に支えられつつ、今後も成長を期待できるとの見方もあります。

トルコの自動車・電気機器などの製造拠点としての優位性、中央値年齢33歳の若くて増え続ける人口、魅力的な観光資源、そして地政学的な重要性などを考慮すれば、インフレが落ち着けばトルコリラが再評価される余地は大きいという見方もあるようです。

3. 投資戦略の工夫による効果

トルコリラの為替変動リスクに対しては、投資戦略の工夫によって対応することも可能です。例えば、自動積立投資を活用することで、為替変動リスクを抑制しながら効率的な長期運用を行うことができると言われています。

ドルコスト平均法により、安値時には多く、高値時には少なく自動的に購入することで平均単価を平準化し、為替変動リスクを軽減することが可能です。また、複数回に分けて少額ずつポジションを持つことも、リスク管理の観点から有効とされています。

実際のトルコリラ投資事例

ここでは、実際にトルコリラに投資した人々の事例を見てみましょう。これらの事例は、トルコリラ投資の実態を理解する上で参考になるでしょう。

事例1:年利10%のトルコリラ債券投資

59歳のTさんは、定年退職後に向けた資産運用を考え始めていた55歳のとき、大手証券会社の営業担当から「トルコリラ債券」という商品を紹介されました。年利10%という高い利回りに惹かれ、「リスクを考慮しても確実にお金が増やせる」と考え、2,000万円の運用を開始したそうです。

しかし、投資開始時には19円強だったリラ/円の為替レートは年々下がり続け、満期が目前になった時点では5円前後まで下落していました。当初は「多少の為替変動があっても、年率10%の金利でマイナス分は十分まかなえる」と思っていたものの、実際には高い為替手数料も相まって、2,000万円の資金を運用して増やすどころか、利息ではカバーできないほどの損失を抱えてしまったと報告されています。

この事例からは、高金利に惹かれて投資を始めたものの、為替変動リスクを過小評価していたことが窺えます。

事例2:トルコリラFXでの失敗

別の事例では、トルコリラのFX投資で利息生活を夢見た投資家が、結果的に100万円を失うことになったケースが報告されています。2018年のアメリカの経済制裁によるトルコショックが発生し、大きな損失を被ったようです。

この投資家は高金利につられてFXという極めてハイリスクな投資法でトルコリラに投資しましたが、トルコリラの価値がわずか数年で8分の1以下になるという歴史的な暴落に見舞われたのです。

投資判断のためのポイント

トルコリラへの投資を検討する際には、以下のポイントを考慮することが重要と思われます。

1. 為替変動リスクの認識

トルコリラへの投資を考える際、高いスワップポイントだけに注目するのではなく、為替変動リスクを十分に認識することが重要です。過去の実績を見ると、トルコリラは長期的に下落傾向にあり、高金利によるメリットが為替の下落によって相殺されてしまう可能性があることを理解しておく必要があります。

2. 政治的リスクへの注意

トルコの政治状況、特にエルドアン大統領の政策や発言には注意を払う必要があるでしょう。中央銀行の独立性の問題や、政治的対立による市場の混乱などは、トルコリラの価値に大きな影響を与える可能性があります。

3. 投資戦略の工夫

トルコリラに投資する場合は、一度に大きな金額を投入するのではなく、ドルコスト平均法などを活用して段階的に投資を行うことが賢明かもしれません。また、レバレッジの使用には十分注意し、リスク管理を徹底することが重要です。

4. 長期的な視点

トルコの経済成長ポテンシャルや地政学的重要性を考慮すると、長期的にはトルコリラが再評価される可能性も否定できません。しかし、短期的には大きな値動きや下落リスクが存在することを理解し、長期的な視点で投資判断を行うことが重要でしょう。

5. 投資商品の選択

トルコリラへの投資方法としては、FX、債券、ETFなど様々な選択肢があります。外貨預金の場合、為替相場の急変動に対応しづらいというデメリットがあるため、FXで該当通貨を買い、いつでも撤退できるようにしておくことが推奨されているようです。

まとめ

トルコリラは高いスワップポイントを魅力に、多くの投資家を惹きつけてきた通貨ですが、同時に長期的な通貨価値の下落、政治的リスク、高インフレなど、多くの問題も抱えています。「やめたほうがいい」という声が多いのは、これらのリスクが実際に多くの投資家に損失をもたらしてきたためと思われます。

しかし、トルコの成長ポテンシャルや適切な投資戦略の採用によって、リスクを抑えながらトルコリラ投資のメリットを活かす方法も存在します。投資判断は個人の責任であり、十分な知識と理解に基づいて行われるべきでしょう。

トルコリラ投資は初心者には確かに「やめたほうがいい」と言えるかもしれませんが、リスクを理解し、適切な戦略を持って取り組む投資家にとっては、ポートフォリオの一部として検討する価値がある可能性もあるようです。どのような投資も、メリットとデメリットを十分に理解した上で、自身の投資目標やリスク許容度に合わせて判断することが最も重要です。

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執筆者のプロフィール
関野 良和
大手国内生命保険会社や保険マーケティングに精通し、保険専門のライターとして多メディアで掲載実績がある。監修業務にも携わっており、独立後101LIFEのメディア運営者として抜擢された。 金融系コンテンツの執筆も得意としており、グローバルマクロの視点から幅広いアセットクラスをカバーしているが、特に日本株投資に注力をしており、独自の切り口でレポートを行う。 趣味のグルメ旅行と情報収集を兼ねた企業訪問により全国を移動しながらグルメ情報にも精通している。
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