株式会社伊藤園(2593)の業績が停滞、株価が大幅に下落したのはなぜ?~日本株個別銘柄についてのザックリ解説

株式会社伊藤園(2593)の業績が停滞、株価が大幅に下落したのはなぜ?~日本株個別銘柄についてのザックリ解説
ライター:関野 良和

株式会社伊藤園の業績が停滞して株価も大幅に下落、その原因と株の買い時を探ってみた

2025年3月3日に発表された第3四半期決算を受けて、伊藤園(2593)の株価は前日比12.89%下落し、2,961.5円という年初来安値を記録しました。この急落の背景には複数の要因が絡み合っており、投資家の間に不安が広がっています。本レポートでは、株価下落の具体的な原因を分析し、同社の現状と今後の展望について多角的に考察します。

業績悪化の実態と株価下落の直接要因

伊藤園の2025年4月期第3四半期(2024年5月~2025年1月)の連結決算は、売上高が前年同期比4.2%増の3,608億9300万円と堅調だったものの、営業利益は同18.2%減の178億800万円、経常利益は同20.6%減の182億5500万円、純利益は同22.1%減の105億円と大幅な減益となりました。この利益の大幅な減少が市場にネガティブに受け止められ、株価下落の直接的な引き金となりました。

特に注目すべき点は、通期業績予想に対する進捗率の低さです。第3四半期終了時点での営業利益の通期予想(265億円)に対する進捗率はわずか67%にとどまり、業績計画の未達リスクを警戒した投資家からの売りが集中した形です。売上高の進捗率も77.3%、経常利益の進捗率は68.4%と低調であり、最終四半期での挽回が困難視されています。

収益性悪化の構造的要因

原材料費とエネルギーコストの高騰

伊藤園の収益性悪化の最大の要因は、原材料費とエネルギーコストの高騰です。同社は飲料製品に使用する茶葉やペットボトル、液糖などの多くの原材料を輸入に依存しています。2024年以降の円安基調の継続により輸入コストが増加し、エネルギー価格の高止まりも相まって生産コスト全体が上昇しています。

特に茶葉の価格は2021年以降急激に上昇しており、伊藤園の主力商品「お〜いお茶」の利益率を圧迫しています。また、コーヒー豆の価格も2020年以降ほぼ倍に急騰し、砂糖価格も上昇傾向にあるため、コーヒー飲料や野菜ジュースの原価も上昇しています。これらの原材料価格上昇は、2023年4月期には営業利益に78億円もの減益影響をもたらしました。

販促費の増加とマーケティング戦略

業績悪化のもう一つの要因は販促費の大幅な増加です。飲料1本の購入でもう1本が無料でもらえるなどの販促イベントの実施により費用が増加し、広告宣伝費も前年同期比16%増加しました。2024年4月には米大リーグの大谷翔平選手とグローバル契約を結び、さらに1月には米大リーグ機構(MLB)とのパートナーシップ契約、ロサンゼルス・ドジャースとの契約など、海外展開を見据えた積極的なマーケティング投資を行っています。

これらの投資は長期的な成長のために必要とはいえ、短期的には利益を圧迫する要因となっています。特に原材料コスト高の状況下では、こうした費用増加の影響がより顕著に表れています。

製品ミックスの悪化と値上げの限定的効果

業績悪化のもう一つの側面は製品ミックスの悪化です。大容量容器の販売増加により、売上高営業利益率は4.9%と前年同期から1.3ポイント低下しました。大型容器製品(2Lペットボトル)は利益率が低い傾向にあり、この販売比率の増加が全体の収益性を引き下げています。

また、2024年10月から実施した「お〜いお茶」などの値上げも想定通りに進まず、コスト増加を十分に吸収できていない状況です。値上げによる減量効果や競合他社の対応なども考慮すると、価格転嫁には限界があることが明らかになっています。

伊藤園の強みと成長戦略

ブランド力と製品開発

厳しい業績状況にもかかわらず、伊藤園には他社にない強みがあります。「お〜いお茶」は日本国内で最も認知度が高い緑茶ブランドとして確固たる地位を築いており、無糖飲料市場では「健康的」「自然派」のイメージが強く、多くの消費者から支持されています。この強固なブランド力は、今後の成長戦略においても重要な資産となるでしょう。

健康志向が進む中、伊藤園の製品ラインナップはこの潮流に適合しており、長期的には市場の拡大が期待できます。特に若年層の健康意識の高まりは、同社の無糖茶飲料や野菜飲料にとって追い風となる可能性があります。

グローバル展開の加速

伊藤園は北米市場で「OISHII OCHA」として日本茶文化を広げる取り組みを積極的に進めています。特に健康志向が強い欧米市場では、日本茶が「ヘルシードリンク」として注目されており、今後さらなる成長余地があると見られています。

2024年のデータによれば、海外売上高は前年同期比9%増の439億円となり、北米やASEAN諸国で「お〜いお茶」シリーズの飲料が10%、ティーバッグが38%増加しています。北米では大谷翔平選手を起用したマーケティングが認知度向上に寄与しているとのことです。

さらに、伊藤園は2024年4月1日にドイツとベトナムに現地法人を設立する計画を発表しています。これまで緑茶飲料やティーバッグの海外販売はアジアや北米が中心でしたが、欧州に拠点を設けることで調達体制を整え、国際展開を加速させる戦略です。2027年4月期を最終年度とする中期経営計画では、海外売上高比率を12%以上(2023年4月期は11.9%)、「お〜いお茶」の販売数量を世界で1億ケース以上(同9000万ケース)とする目標を掲げています。

タリーズコーヒー事業の好調

伊藤園グループのタリーズコーヒー事業は、全社的な業績悪化とは対照的に好調を維持しています。第3四半期累計のタリーズコーヒー事業の営業利益は前年同期比15%増となりました。2023年12月にコーヒーなどの主要メニューを値上げした後も客足が好調であり、コーヒーチェーン事業としての強みを示しています。

持ち帰り専門やメニュー数を減らした省スペースの店舗の新設を進めるなど、効率化と拡大を同時に実現する戦略も奏功しています。この事業セグメントは今後も伊藤園グループの利益に貢献することが期待されます。

今後の株価見通しと投資判断

短期的な見通し

短期的には、伊藤園の株価および業績の回復には時間がかかる可能性が高いと考えられます。原材料費やエネルギーコストの高止まり、国内市場での競争激化、為替リスク(円安基調)など、複数のネガティブ要因が存在しています。特に、通期業績予想の達成が困難視される中、当面は株価に対する下押し圧力が続く可能性があります。

伊藤園は2025年4月期通期の業績予想を据え置いており、売上高は前期比3%増の4666億円、純利益は10%増の172億円と最高益の更新を見込んでいます。しかし、第3四半期までの進捗状況を考えると、この目標達成は容易ではないでしょう。

中長期的な展望

一方、中長期的な視点では、伊藤園の成長ポテンシャルは依然として高いと評価できます。同社を担当するアナリストの予想によれば、今後3年間で年間17%の収益成長が見込まれており、市場平均(年10%)を上回る成長が期待されています。

健康志向の高まりや海外市場での拡大、タリーズコーヒー事業の好調など、伊藤園の成長を支える要素は複数存在します。特に全ての茶葉を契約農家から調達する取り組みなど、原材料調達の安定化策も進められており、中期的にはコスト面での改善も期待できます。

株価評価の面では、現在のPER(株価収益率)は29.2倍と日本企業の平均(約13倍)を大きく上回っています。この高いPERは、市場が伊藤園の将来的な高成長を期待していることの表れともいえますが、短期的な業績下振れリスクを考慮すると、当面は株価の上値が重い状況が続く可能性があります。

まとめ

伊藤園の株価急落は、原材料コスト高騰、販促費増加、国内市場での競争激化、値上げ効果の限定性など複合的な要因によるものです。第3四半期決算での大幅減益と通期業績達成への懸念が、市場の不安を増幅させたと言えるでしょう。

短期的には厳しい状況が続く可能性がありますが、強固なブランド力、海外市場での成長余地、タリーズコーヒー事業の好調など、中長期的な成長ポテンシャルは依然として高いと評価できます。投資家としては、一時的な業績悪化に惑わされず、同社の本質的な競争力と成長戦略を見極めることが重要でしょう。

伊藤園が原材料コスト高という逆風を乗り越え、グローバル展開とブランド力強化を通じて再び成長軌道に乗れるか否かが、今後の株価を左右する鍵となります。経営陣には、収益構造の改善と成長投資のバランスを取りながら、持続的な企業価値向上に向けた舵取りが求められています。

株式会社伊藤園の業績・株価が復活するための条件を考えてみた

2025年3月に入り、「お~いお茶」でおなじみの伊藤園(2593)の株価は年初来安値を更新し、3,000円を割る水準まで下落しました。3月3日発表の2025年4月期第3四半期決算で大幅な減益となり、株価は前日比12.89%下落の2,961.5円を記録。この状況から回復するために何が必要なのか、現状の課題と打開策を多角的に分析します。

業績悪化の根本原因と直面する課題

原材料・エネルギーコスト高騰の収益圧迫

伊藤園の収益性悪化の最大の要因は、原材料費とエネルギーコストの高騰です。茶葉やペットボトル、液糖など多くの原材料を輸入に依存している同社は、2024年以降の円安進行により輸入コストが増加しました。特に茶葉の価格は2021年以降急激に上昇しており、主力商品「お~いお茶」の利益率を大きく圧迫しています。

コーヒー豆や砂糖価格も上昇傾向にあり、コーヒー飲料や野菜ジュースの原価も増加。2023年4月期には原材料価格上昇により営業利益に78億円もの減益影響をもたらしました。2025年4月期第3四半期(2024年5月~2025年1月)決算では、売上高は前年同期比4.2%増の3,608億円と堅調だったものの、営業利益は同18.2%減の178億円、経常利益は同20.6%減の182億5500万円、純利益は同22.1%減の105億円と大幅な減益となっています。

通期業績達成の危機と値上げ効果の限定性

第3四半期終了時点での営業利益の通期予想(265億円)に対する進捗率はわずか67%にとどまり、業績計画の未達リスクを警戒した投資家からの売りが集中しました。売上高の進捗率も77.3%、経常利益の進捗率は68.4%と低調であり、最終四半期での挽回が困難視されています。

2024年10月に実施した「お~いお茶」などの値上げも想定通りに進まず、コスト増加を十分に吸収できていない状況です。値上げによる減量効果や競合他社の対応なども考慮すると、価格転嫁には限界があることが明らかになっています。

製品ミックスの悪化と販促費増加

大容量容器の販売増加により、売上高営業利益率は4.9%と前年同期から1.3ポイント低下しました。大型容器製品(2Lペットボトル)は利益率が低い傾向にあり、この販売比率の増加が全体の収益性を引き下げています。

さらに、販促費の大幅な増加も業績悪化の一因となっています。飲料1本の購入でもう1本が無料でもらえるなどの販促イベントの実施により費用が増加し、広告宣伝費も前年同期比16%増加しました。

業績・株価回復のための戦略的施策

原材料調達の安定化と収益構造改革

伊藤園が業績回復を果たすためには、まず原材料調達の安定化が不可欠です。1976年から取り組んでいる「茶産地育成事業」をさらに拡大し、国内での茶葉調達を強化する必要があります。この事業は、茶農家の皆様に生産していただいた茶葉を全量買い取りする「契約栽培」と、耕作放棄地などを活用した大規模な茶園に造成して茶葉を生産する「新産地事業」から成り、2021年4月末時点で展開面積が2,207haに達しています。

同時に、収益構造の改革も急務です。伊藤園は2025年4月期から2029年4月期までの5年間を対象とする新中期経営計画において、「国内既存事業の盤石化」を重点戦略に据え、国内事業体制の再構築とサプライチェーンの最適化を進めています。特に最初の2年間で環境変化に対応した構造改革を実施し、収益性を重視した事業体制の構築を目指しています。

グローバル展開の加速とブランド力強化

伊藤園は「世界のティーカンパニー」を目指し、グローバル展開を重要な成長戦略としています。2024年4月には北米を中心に「OISHII OCHA」ブランドの認知度向上に取り組み、北米やASEAN諸国で「お~いお茶」シリーズの飲料が10%、ティーバッグが38%増加しています。

さらに、2024年4月1日にドイツとベトナムに現地法人を設立し、欧州市場への本格進出を図っています。これまで緑茶飲料やティーバッグの海外販売はアジアや北米が中心でしたが、欧州に拠点を設けることで調達体制を整え、国際展開を加速させる戦略です。

2024年には米大リーグの大谷翔平選手とグローバル契約を結び、さらにMLB(米大リーグ機構)とのパートナーシップ契約、ロサンゼルス・ドジャースとの契約など、海外展開を見据えた積極的なマーケティング投資を行っています。これらの投資効果を最大化するマーケティング戦略の展開が、今後の業績回復の鍵を握っています。

戦略的M&Aによる成長加速

伊藤園は今後約5年間でM&Aなどに300億円(国内100億円、海外200億円)を投じる計画を打ち出しています。「海外」「EC・D2C」「原料卸」「農業」「環境」の5分野を重点投資先とし、お茶や健康分野の事業拡大を目指しています。

直近の出資先としては抹茶の販売を手がけているTHE MATCHA TOKYOや、農業や食に関する情報プラットフォームを構築しているウォーターセルがあります。これらの企業との協業を通じて、国内外の抹茶拡販や茶農業のデジタル化による持続可能な茶農業の実現に取り組んでいます。

M&Aにより、既存事業とのシナジーが期待できる企業との資本提携を推進し、事業領域の拡大と新たな成長機会の創出が期待されます。特に計画している投資額は国内よりも海外の方が多く、海外企業とのM&Aの実現可能性が高いことから、グローバル展開の加速に寄与するでしょう。

タリーズコーヒー事業の成長継続

伊藤園グループの中で、タリーズコーヒー事業は好調を維持しています。第3四半期累計のタリーズコーヒー事業の営業利益は前年同期比15%増となり、全社的な業績悪化とは対照的な成績を収めています。

2023年12月にコーヒーなどの主要メニューを値上げした後も客足が好調であり、持ち帰り専門やメニュー数を減らした省スペースの店舗の新設を進めるなど、効率化と拡大を同時に実現する戦略が奏功しています。

現在777店舗に拡大したタリーズの店舗網をさらに最適化し、利益率の高い店舗フォーマットの開発・展開を加速することで、グループ全体の収益に一層貢献することが期待されます。

サステナビリティ経営の推進と環境対応

伊藤園は中期経営計画の根底に「サステナビリティ経営の推進」を位置付け、環境問題への積極的な取り組みを進めています。特に海洋プラスチックごみ問題や容器包装リサイクル問題に対応するため、2030年度までにペットボトルに使用するリサイクル素材等の割合を100%にする目標を設定しています。

さらに、「お~いお茶」のペットボトル製品については、より優先的に100%リサイクル素材等に切り替えるべく、達成目標時期を2030年度より5年早い2025年度に設定しています。また、環境に優しい植物由来の生分解性ECOストローを採用した製品を発売するなど、環境対応を加速させています。

これらの取り組みは、ESG投資家からの評価向上につながり、中長期的な企業価値向上と株価回復の基盤となるでしょう。

財務目標と株主還元

伊藤園は新中期経営計画において、収益性の重視、利益とシェアの向上、持続的な成長を目指すための資本効率重視の経営方針に基づき、2029年4月期の定量目標を設定しています。5年間累計の営業キャッシュフローは1600億円以上、投資キャッシュフローとして設備投資550億円、事業投資300億円、財務キャッシュフローとして株主還元450億円以上(総還元性向40%以上)、有利子負債の返済250億円を目標としています。

また、中期的には原価高騰などの予測される課題に対応しながら、5年間で営業利益率を8%以上(現在の5.5%から)に引き上げることを目指しています。この目標達成により、株価の評価指標であるPERの適正化が進み、株価回復につながると期待されます。

配当については、普通株式、優先株式それぞれ44円/株(前期比2円増配)、56円/株(同2円増配)を予定しており、予想配当性向は普通株式31.3%、優先株式36.7%となっています。安定的な株主還元を継続することで、投資家の信頼回復を図ることも重要です。

株価回復への見通しと投資判断

伊藤園を担当するアナリストの予想によれば、今後3年間で年間17%の収益成長が見込まれており、市場平均(年10%)を上回る成長が期待されています。短期的には原材料コスト高騰や国内市場での競争激化など厳しい状況が続く可能性がありますが、中長期的な視点では成長ポテンシャルは依然として高いと評価できます。

現在のPER(株価収益率)は29.2倍と日本企業の平均(約13倍)を大きく上回っていますが、これは市場が伊藤園の将来的な高成長を期待していることの表れともいえます。しかし、短期的な業績下振れリスクを考慮すると、当面は株価の上値が重い状況が続く可能性があります。

投資家としては、一時的な業績悪化に惑わされず、同社の本質的な競争力と成長戦略を見極めることが重要です。特に「お~いお茶」のグローバル展開、戦略的M&A、タリーズコーヒー事業の成長など、中長期的な成長ドライバーに注目する必要があるでしょう。

まとめ

伊藤園の業績と株価回復には、①原材料調達の安定化と収益構造改革、②グローバル展開の加速とブランド力強化、③戦略的M&Aによる成長加速、④タリーズコーヒー事業の成長継続、⑤サステナビリティ経営の推進が不可欠です。

短期的には第3四半期の減益結果や通期業績達成への懸念から株価が下落していますが、同社は中長期的な成長に向けた明確な戦略を持っています。国内外での「お~いお茶」ブランドの強化、大谷翔平選手を起用したグローバルマーケティングの展開、今後5年間で300億円規模のM&A実施など、成長に向けた施策は具体的に進行中です。

伊藤園が原材料コスト高という逆風を乗り越え、グローバル展開と収益構造改革を通じて再び成長軌道に乗れるかが、今後の株価回復の鍵となります。投資家は短期的な業績変動に惑わされず、中長期的な成長ポテンシャルに焦点を当てた投資判断が求められるでしょう。

株式会社伊藤園の株に投資するための条件を業績・指標などから考えてみた

株式会社伊藤園への投資を検討するにあたり、普通株式(2593)と優先株式(25935)の両方の特性を踏まえ、投資判断に必要な条件を体系的に整理します。伊藤園は日本を代表する飲料メーカーですが、近年は業績に変動が見られるため、投資判断には慎重な分析が必要です。

銘柄の基本情報と特性

株式の種類と価格

伊藤園には普通株式と優先株式の2種類があります。この点は投資判断において重要な検討事項となります。2025年3月12日時点での普通株式の価格は3,041円であり、優先株式は普通株式と比較して大幅に安い価格設定となっています。2024年12月18日時点では優先株式の価格は1,799円でした。

普通株式と優先株式の大きな違いは、優先株式には議決権がない一方で、普通株式より25%増しの配当が約束されていることです。そのため、投資目的に応じて選択することが可能です。議決権に関心がなく配当重視の投資家であれば、優先株式が有利な選択肢となります。

株価評価指標

普通株式の主要指標を見ると、PER(株価収益率)は23.79倍、PBR(株価純資産倍率)は1.46倍となっています。アナリスト予想では平均目標株価3,350円(現在株価から約10%上昇余地あり)とされており、「中立」と評価されています。PERが比較的高めであることから、現時点では割高感があるとも言えます。

業績動向と将来性

最新業績と見通し

2025年4月期第3四半期決算では、売上高は前年同期比4.2%増の3,608億円と堅調でしたが、営業利益は同18.2%減の178億円、経常利益は同20.6%減の182億円、純利益は同22.1%減の105億円と大幅な減益となりました。

通期業績予想に変更はなく、2025年4月期の売上高は前期比2.8%増の4,666億円、営業利益は同5.9%増の265億円を見込んでいます。しかし、第3四半期時点での営業利益の通期予想に対する進捗率はわずか67%にとどまり、業績計画の達成が困難視されている状況です。

業績悪化の要因と対策

業績悪化の主な要因としては、原材料費とエネルギーコストの高騰、販促費の増加、製品ミックスの悪化、値上げ効果の限定性などが挙げられます。特に茶葉の価格上昇や円安による輸入コストの増加は、主力商品「お〜いお茶」の利益率を圧迫しています。

これらの課題に対し、伊藤園は収益構造の改革や原材料調達の安定化、グローバル展開の加速などの対策を進めています。

株主還元策

配当と株主優待

配当については、2025年4月期は普通株式で44円/株(前期比2円増配)、優先株式で56円/株(同2円増配)を予定しています。これにより、普通株式の配当利回りは約1.46%、優先株式は約3.1%となります。

株主優待については、毎年4月30日現在の株主に対して以下の優待が提供されます。

  • 100株以上1,000株未満:1,500円相当の自社製品詰合せ + 通信販売製品の30%割引クーポン
  • 1,000株以上:3,000円相当の自社製品詰合せ + 通信販売製品の50%割引クーポン

これにより普通株式の優待利回りは約0.49%となり、配当と合わせた実質利回りは約1.95%です。

自社株買い

伊藤園は2024年11月28日に最大120億円の自社株買いを発表しました。普通株式の発行済み株式(自社株を除く)の3.4%にあたる300万株を上限に、2024年12月3日から2025年3月31日まで買い付けを行い、2025年4月15日に全株消却する計画です。これにより資本効率を高め、株主還元を厚くする姿勢を示しています。

中長期的な成長戦略

グローバル展開

伊藤園は「世界のティーカンパニー」を目指し、グローバル展開を加速させています。2024年には北米を中心に「OISHII OCHA」ブランドの認知度向上に取り組み、北米やASEAN諸国で「お〜いお茶」シリーズの販売が拡大しています。また、欧州市場への本格進出を図るため、ドイツとベトナムに現地法人を設立しました。

タリーズコーヒー事業

伊藤園グループの中で、タリーズコーヒー事業は好調を維持しており、第3四半期累計の営業利益は前年同期比15%増となっています。全社的な業績悪化とは対照的な成績を収めており、今後のグループ収益に大きく貢献することが期待されます。

中期経営計画

2027年4月期を最終年度とする中期経営計画では、ROE10%以上(2024年4月期は8.9%)、総還元性向40%維持、海外売上比率12%以上(2023年4月期は11.9%)などの目標を掲げています。これらの目標達成に向けて、今後5年間で700億円規模の事業投資を計画しています。

投資判断のまとめ

伊藤園株への投資を検討する際のポイントは以下のとおりです。

  1. 普通株式と優先株式の選択:優先株式は配当が25%増しで価格も安いが議決権がない。投資目的に応じて選択することが重要。
  2. 短期的な視点:現在は業績の不透明感から株価が下落しており、第3四半期決算後の株価は3,000円前後で推移。短期的には原材料コスト高や収益性の悪化などから株価上昇には慎重な見方が必要。
  3. 中長期的な視点:グローバル展開の加速、タリーズコーヒー事業の好調、ROE向上に向けた取り組みなど、成長戦略が明確である点は評価できる。
  4. 株主優待目的の投資:4月末が権利確定日であるため、優待目的であれば今から検討するタイミングとして適切。特に優先株式の場合、配当が多く株価も安いため、総合利回りの観点では魅力的。
  5. サステナビリティ:環境問題への取り組みなど、ESG経営の推進は中長期的な企業価値向上に寄与する可能性がある。

総合的に判断すると、短期的な業績不安はあるものの、中長期的な成長ポテンシャルを持つ企業であり、特に配当重視の長期投資家にとっては優先株式が検討に値する選択肢と言えるでしょう。

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最終更新日:2025年3月12日

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執筆者のプロフィール
関野 良和
大手国内生命保険会社や保険マーケティングに精通し、保険専門のライターとして多メディアで掲載実績がある。監修業務にも携わっており、独立後101LIFEのメディア運営者として抜擢された。 金融系コンテンツの執筆も得意としており、グローバルマクロの視点から幅広いアセットクラスをカバーしているが、特に日本株投資に注力をしており、独自の切り口でレポートを行う。 趣味のグルメ旅行と情報収集を兼ねた企業訪問により全国を移動しながらグルメ情報にも精通している。
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