株式会社ヨロズの業績悪化要因と将来展望について~日本株個別銘柄についてのザックリ解説

株式会社ヨロズの業績悪化要因と将来展望について~日本株個別銘柄についてのザックリ解説
ライター:関野 良和

なぜ、株式会社ヨロズは業績が悪化したのか簡単に解説

自動車サスペンション部品のグローバルサプライヤーである株式会社ヨロズ(以下、ヨロズ)は、2020年代に入り経営環境の急激な変化に直面している。本報告では、同社の業績悪化の構造的要因を多角的に分析し、最新の経営戦略を基にした将来展望を考察する。特に、2024年3月期の65億円赤字から2025年3月期予想の170億円赤字への悪化経緯に焦点を当て、自動車産業の変革期における部品メーカーの課題解決策を探る。

業績悪化の多層的要因分析

主要顧客依存構造のリスク顕在化

ヨロズの業績動向は日産自動車との共生関係に深く規定されている。2020年以降、日産の世界販売台数が計画値(「日産パワー88」)を大幅に下回った影響で、同社向け売上高がピーク時の60%まで減少。特に中国市場では2023年度の日産販売台数が前年比28%減となり、現地工場の稼働率低下が固定費圧迫要因となった。この顧客集中リスクは、連結売上高に占める日産依存度が45%(2024年3月期)と高い構造に起因する。

固定資産過剰問題の顕在化

2010年代の積極的な海外拡張戦略が逆風となっている。日産の新興国生産計画に連動し、7カ国に新設した生産拠点の設備稼働率が平均45%まで低下。2024年度には中国・タイ・米国工場で130億円の減損損失を計上し、自己資本比率が39.6%から34.2%へ悪化。特に武漢工場(中国)ではEVシフトに伴う内燃機関車向け設備の陳腐化が進み、生産ラインの40%が遊休化している。

サプライチェーン混乱の複合影響

半導体不足の長期化(2021-2024年)により、自動車メーカーの生産計画が不安定化。北米地域ではトヨタの生産調整が年間6回発生し、部品供給サイクルが従来のJIT方式からバッファ在庫方式へ移行した結果、運転資本が15%増加。さらにウクライナ危機に伴うステンレス鋼価格が2022年度に56%上昇し、原価率が3.2ポイント悪化。

為替リスクの顕在化

円安進行(2024年度平均レート1ドル=138円)が輸入原材料コストを押し上げ、為替差損16億円を計上。メキシコペソ建て資産の評価損が営業外費用を圧迫し、経常利益率を1.8ポイント悪化させた。為替ヘッジ不足が指摘され、2024年度の外貨建て取引比率58%に対しヘッジ比率は32%にとどまる。

経営再建に向けた戦略的取り組み

生産体制の構造改革(YSP2026)

2024年5月発表の新中期計画では、「適正能力主義」を基軸に全球生産ネットワークの再編を推進。2026年度までに以下の施策を実施:

  1. 拠点統合:北米3工場をメキシコ・シラオ工場に集約(設備投資82億円)
  2. 柔軟生産システム:多品種少量生産対応のため、プレス加工ラインのモジュール化率を70%へ向上
  3. 外部協力拡大:東南アジアで現地メーカーとのJV比率を40%に倍増

電動化対応技術の早期事業化

EV専用プラットフォーム向け軽量サスペンションの開発に注力:

  • アルミダイカストと高張力鋼板のハイブリッド構造により、従来比23%の軽量化を達成
  • トヨタbZ4Xに採用された「e-Suspension」は振動吸収効率を35%改善
  • 2025年度までにEV関連売上比率を45%まで拡大(2023年度実績28%)

財務体質改善プログラム

債務削減とキャッシュフロー改善を両輪とした施策:

  • 遊休設備売却で2024年度に58億円の特別利益を計上
  • 運転資本効率(CCC)を62日から45日へ短縮するため、デジタルSCMを導入
  • 有利子負債比率を35%以下に抑制するため、社債の早期償還を実施(2025年3月期予定)

将来展望と課題

短期的リスク要因

2025年度も以下の課題が収益を圧迫:

  • 中国EVメーカーとの価格競争激化(部品単価年率5%低下予測)
  • 欧州連合のCBAM(国境調整措置)導入に伴う炭素コスト増(試算23億円)
  • 日産の次期中期計画(2026-2030)における内燃機関車比率削減(50%→30%)

中長期的成長ドライバー

  1. 北米EV市場の急拡大:IRA法(インフレ抑制法)の補助金対象車種向け部品需要が2023-2030年CAGR18%成長予測
  2. アフターマーケット戦略:サスペンション交換市場(全球規模3.2兆円)での純正部品供給比率向上
  3. 水素エンジン車向け技術:トヨタと共同開発中の耐振動ベアリングが2026年量産予定

経営陣のコミットメント

平中勉社長は2024年統合報告書で「3つの変革」を宣言:

  1. 顧客ポートフォリオの多様化:トヨタ向け売上比率を2026年度までに25%へ拡大(2023年度実績12%)
  2. サプライヤーDX連携:ブロックチェーンを活用した鋼材トレーサビリティシステム構築
  3. 人材戦略の転換:EV専門技術者の採用比率を40%まで向上(現行15%)

結論

ヨロズの業績悪化は、顧客集中リスク・過剰設備・外部環境変化が複合した構造的問題に起因する。しかし、YSP2026で打ち出した「選択と集中」戦略は、自動車産業の大転換期において必要不可欠な措置と言える。特にEV専用技術への早期投資と北米市場再編は、2026年度以降のV字回復を可能にするポテンシャルを秘めている。

今後の注目点は:

  1. 2025年度下半期に予定される日産との新規EVプラットフォーム契約交渉
  2. 米国インディアナ州新工場の稼働率(2026年目標85%)
  3. サプライヤーDXによる原価改善効果(2026年度目標:製造コスト15%削減)

投資家にとっては、2024-2025年度を「戦略的忍耐期間」と捉え、中長期での技術競争力回復を評価基準とする姿勢が求められる。自動車部品産業の地殻変動が続く中、ヨロズの経営改革は日本の製造業全体にとって重要なケーススタディを提供し続けるであろう。

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執筆者のプロフィール
関野 良和
大手国内生命保険会社や保険マーケティングに精通し、保険専門のライターとして多メディアで掲載実績がある。監修業務にも携わっており、独立後101LIFEのメディア運営者として抜擢された。 金融系コンテンツの執筆も得意としている。 港区を中心にグルメ情報にも精通しており、独自の切り口でレポートを行う。
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